鈴なり星

平安古典文学の現代語訳&枕草子二次創作小説のサイト

狭衣物語

狭衣物語42・飛鳥井の女君の供養の夜に…

その年の終わりには、常磐の里にて故・飛鳥井の女君のための供養を行った。かの女君への真心を、どれほど尽くしても尽くし足りないくらいの想いで盛大に執り行う。経巻や仏像の装飾はもちろんのこと、講師には比叡山延暦寺の首座の僧を招き、当日の法会に招…

狭衣物語41・恋しい人の移り香する猫が羨ましくて…

話は一品宮に戻る。常磐の尼君の娘が、故飛鳥井の女君の子に付き添って、一条院に上がり女房となった。その娘は一条院では小宰相の君と呼ばれている。狭衣は、亡き飛鳥井の女君を懐かしがりたい時や子どもの事が話したくてたまらない時、他の女房には目もく…

狭衣物語40・出生の秘密を背負った子供たちの袴着

姫の袴着の式の夜。堀川大殿が一条院に参上し、忙しい身ではありながらも、姫の腰結い役を心を込めて果たされた。隠し通してはいるが、実の子の成長を父親に祝福してもらえた狭衣は心の内でどれほど喜んだことか。その翌日は、若宮の袴着の儀式である。朝早…

狭衣物語39・姫の袴着であせる狭衣と一品宮の思いやり

一條の宮に住む若宮の御袴着の儀式が11月に行われることが決まった。現関白の堀川大殿も袴着の準備に追われていたが、その様子を見ていた狭衣は、一品宮のところにいる姫もそれほど若宮と年は違わないはず、できれば同じように袴着を祝ってあげたい、と思い…

狭衣物語38・ようやく愛しい我が子に出逢えて

一品宮が下がった後の昼下がり、幼い人のいる気配がする部屋の障子のもとに近づいて、狭衣はこっそりと穴をあけてみた。穴をのぞくと、その向こうに、九つか十くらいの遊び相手がたくさんいる中に、若宮と同じくらいの年かっこうの、それはそれはかわいらし…

狭衣物語37・狭衣、温和な妻一品宮にモラハラ行為

狭衣は一品宮には後朝の手紙は贈らなかったが、宮の母君である女院には手紙を贈った。 『まだ知らぬ暁露におき別れ八重たつ霧にまどひぬるかな(起きてあなたのもとから別れての帰り道は、あなたへの想いが幾重にも重なって、道に迷うほどでした)』 「まあ…

狭衣物語36・狭衣、一品宮と正式に結婚

狭衣と一品宮の婚儀の当夜。大殿と堀川上が心を配り、狭衣の支度を終えた。衣装にたきしめた極上の香の薫りが華やかな衣装をさらに引き立てる。しかし出かける時刻がとっくに過ぎても、かんじんの狭衣は魂が抜けてしまったかのように、ぼんやりと部屋の端の…

狭衣物語35・入道の宮、狭衣のすがる思いを破り捨てる

嵯峨院にさっそく参った典侍は、朝の勤行に専念している入道の宮のいる御堂に向かった。返事があるとは思えないが、とにかくお見せすることだけはしなければ。ようやく昼ごろ、入道の宮が文机で硯をお取りになったついでに、狭衣からの手紙をそっと置いた。…

狭衣物語34・事態はどんどん狭衣の望まぬ方向へ

それからしばらくたった六月のある暑い昼下がり、狭衣は嵯峨院の御子である若宮(真実は狭衣と女二の宮の子)と一緒に、若宮の住む一條の宮で遊んでいたとき、急に荒れ模様になったことがあった。雨に打たれる柏の木を若宮と二人でながめていると、入道の宮…

狭衣物語33・堀川大殿、狭衣の結婚に向け正式に動く

狭衣の父である堀川大殿にももちろんこの噂は伝わった。しかし、「そうであったか。狭衣が長年思いを懸けていたのは一品宮さまであったのか。なるほどなるほど、それで合点がゆく。女二の宮さまや三の宮さまをすすめても、縁談を嫌がっていた理由が」とカン…

狭衣物語32・権大納言、狭衣と一品宮の噂を言いふらす

それから数日後、その権大納言は一品宮の中納言の君のもとをたずねた。「あの夜、この屋敷から出て行く狭衣の君を見かけましたよ。そういうわけだったんですねえ。たしかに一品宮と狭衣の君がわりないご関係なら、私は邪魔以外の何者でもないですから。しか…

狭衣物語31・狭衣、忘れ形見の子見たさに

今上は、亡くなられた御父君の故一条院を忘れられないでいた。発病後、あまりにも早く崩御され、子としてお見舞いも満足に出来なかったことをいつまでも後悔していた。そのせいもあって、残された母后(女院)と妹の姫宮をことのほか大切にしていた。この妹…

狭衣物語30・洞院方の今姫君のドタバタ事件

さて、洞院上が入内を画策している今姫君である。二月に入内の予定ではあるが、世間の人から、「なんてお幸せなのでしょう。大きな声じゃ言えないけど、もとはといえば一介の女房の産んだ物の数にも入らない方なのに、洞院のお方に引き取られて後宮入りとは…

狭衣物語29・狭衣、涙の追善供養

二十日過ぎの細い月影が霞みがかって見える。四方の山々に暁を告げる寺の鐘の声が寂しく響き渡る。ひなびた山里のこんな風景を、飛鳥井女君も毎日見て暮らしたのだろうか…そんなふうに狭衣が女君のことを思いやっていると、隣の部屋で若い女房たちの声が聞こ…

狭衣物語28・飛鳥井女君の真実を告げられて

飛鳥井女君が仮に生きていたとしても、無理に探し出してあれこれ詮索するのはいかにも未練がましい行為だろう…そうは思えども、二人の間にできた子がわびしい身の上で世間を漂うのは、いかにも哀れで仕方がない。狭衣は従者の道季を呼び、今姫君のところで聞…

狭衣物語27・今姫君の母代の衝撃の告白

対の屋の御簾のもとで、「大将が参りました」と狭衣自身が告げると、蚊の鳴くような声で女房が何か言い、バタバタと逃げる音がした。こうして逃げ隠れするのが洞院上の流儀なのだろうかと思い、御簾を引き上げてのぞくと、たくさんの女房たちが重なり合うよ…

狭衣物語26・洞院上の願い

ある日の昼下がり、狭衣は洞院上に呼ばれた。「狭衣さまは常日頃から、中宮さまの御母君の坊門上と親しくしておいでですが、私どもの方にはちっともお顔を見せては下さらないので、お越しをお願いした次第です。私も年をとるにつけ、だんだんと心細くなって…

狭衣物語25・秘密の我が子若宮を親心で見守る狭衣

雪の降りしきるある日の夕暮れ。狭衣大将は内裏より退出する際、「このような心細い夕暮れ、若宮はどのようにお過ごしであろうか」と気になり、若宮の住まいに立ち寄ってみた。鄙びた山里の山荘のように人少なで、幼い若宮のそばにいるのは乳母たちだけ。し…

狭衣物語24・後ろ髪を引かれる思いで粉河寺を離れ

深山に閉ざされた粉河寺の冬は寂しい。夜の間に固く冷たく降りた霜氷は歩み難く、神さびた苔に覆われた木々は魔性の物を宿らせているようで、その奥へと続く森の中へ狭衣を誘っている。誰に見られることなく枝葉を落とし、すっかり枯れ切ってしまった木々が…

狭衣物語23・狭衣、粉河寺での運命の出会い

この憂き世をただただ目的もなく生きている…そんな自分がみじめで、少しでも人生の道しるべを見つけようと、狭衣はある日、高野山にお参りしようと思い立った。ごく親しい人にこっそりと御供を頼み、参拝する寺に献上する法衣・袈裟などの法服をたくさん用意…

狭衣物語22・妻選びにうんざり

そんな迷いもあって、何日経っても出家のふんぎりがつかず、ぐずぐずと心沈んだ日々を過ごす狭衣だったが、源氏の宮がかつて住んでいた対の屋を眺めれば涙があふれ、まるで亡き人を恋うる思いである。宮中に出仕する気になどとてもなれない。新斎院(源氏の…

狭衣物語21・源氏の宮、堀川邸を巣立つ

三月になった。入内の準備とうってかわって、今度は初斎院に入る準備に忙殺される堀川家である。源氏の宮の入内を長年思い定めていた大殿であったが、この意外な変更に機嫌は良くない。堀川上は、自分がかつて斎宮になった時のことを思い出し、付き添いとは…

狭衣物語20・源氏の宮の入内の行方は

大嘗会の女御代に選定された後そのまま入内…そんな話を聞くにつけ、狭衣はいよいよ絶望的な気持になり、ああもう本当に今度こそ出家の志を遂げてこの世の憂さから解放されたいものだ、だが積年のくすぶり続けた想いをどうしてくれよう、いっそのこと契りを結…

狭衣物語19・今上の譲位、そして出家

夏になって、帝はご気分がすぐれない日が続いて病がちになった。譲位をほのめかすようになり、退位後は出家して、嵯峨の小倉山のふもとに造営しておかれた御堂にて静かに勤行したいものだと思われる。次代の東宮になるべき一の宮(坊門上と堀川大殿の娘であ…

狭衣物語18・狭衣、飛鳥井女君の消息を知る

それからしばらくして、筑紫に下っていた狭衣の乳母子である道成が、国司に任ぜられるとのことで、正月に京に上ってきた。道成は狭衣に対面して、大宰府からの道中の興味深いことなどを、おもしろく物語る。そのうち、入水した道成の女君の話になったが、ど…

狭衣物語17・逢いたい男、拒否する女

すさまじきものは師走の月とはよく言われるが、見る人見る時間が違えば、また格別なものとなる。狭衣は、明け方の寒気に澄み渡る師走の月を見ているうちに、どうにもこうにもたまらなく心細くなり、居ても立ってもいられず、乳母子の道季(飛鳥井女君をさら…

狭衣物語16・女二の宮、苦悩の果ての落飾

お産の終わった女二の宮はだんだん快方に向かっていた。しかし心の内は、口惜しさと恥ずかしさで命も絶えそうな心地だった。そんな女二の宮を世話する母大宮の容態は、産養いの頃はごく普通に見えたのに、ある夕暮れ、突然はかなくお亡くなりになってしまっ…

狭衣物語15・しでかした現実から逃げる男

女二の宮の宮中退出の話を聞いた狭衣大将は、いてもたってもいられず、中納言内侍典侍のもとへ出向いた。「とにかく一度でいいからお会いしたいんだ」という狭衣の真剣な様子に内侍典侍は、「いまにも消えてしまわれそうな弱りようですので、母大宮さまが夜…

狭衣物語14・女二の宮、婚儀前の懐妊発覚

「お待たせいたしました。少々風邪を引きまして、今まで休んでおりました」「昨日の晩も、君に会いに行ったんだけどね。見放されたかと思ったよ」「申し訳ございません。でも狭衣さま、御降嫁の件もだんだんと具体的になってきておりますのに、いつになった…

狭衣物語13・予期せぬ出来事

数日後、狭衣は女二の宮付きの上臈女房である中納言内侍典侍のもとを訪れた。この中納言内侍典侍の姉は、女二の宮の母大宮と縁続きの者で大弐の乳母と言う。しかもこの大弐の乳母は狭衣の乳母でもあった。大弐の乳母は夫とともに遠国に下向してしまったが、…