2023-04-08から1日間の記事一覧
「ごり押しにもほどってものがあるだろう」帰る道すがら、斉信は憮然とした面持ちでひとりごちた。『わしの病が回復するまでの間、息子の伊周に文書の内覧をお許しいただきたい。あれももう内大臣として一人前になったと思う。公卿への根回しはまだしておら…
柔らかな早春の日差しが都大路にそそぐ二月の終わり、斉信は関白道隆の住む二条邸へ向かっていた。表向きの用事はまったくたいしたことのないものだ。故父為光が祖父師輔からいただいた銀の薫物筥(たきものばこ)を一揃え、お見舞いがてら関白にお譲りする…
雪の降りしきるある日の夕暮れ。狭衣大将は内裏より退出する際、「このような心細い夕暮れ、若宮はどのようにお過ごしであろうか」と気になり、若宮の住まいに立ち寄ってみた。鄙びた山里の山荘のように人少なで、幼い若宮のそばにいるのは乳母たちだけ。し…
座敷牢まがいの場所に軟禁され、孤立無援の対の御方たちですが、その薄幸の美少女ぶりにすっかり同情してしまった民部少輔の妻は、不自由な生活を強いられている御方たちの気を少しでも慰めようと、心のこもったお世話をするのでした。ところが、御方たちを…
「やあ宮。すっかりご無沙汰だね。結婚した妻の家の居心地があまりに良いものだから、てっきり忘れられているかと思ってたよ」人も少なな穏やかな昼下がり、脇息にもたれていた今上は、御前に参上した東雲の宮にそう声をかけました。「は。鬱々とした気持ち…