鈴なり星

平安古典文学の現代語訳&枕草子二次創作小説のサイト

狭衣物語

狭衣物語14・女二の宮、婚儀前の懐妊発覚

「お待たせいたしました。少々風邪を引きまして、今まで休んでおりました」「昨日の晩も、君に会いに行ったんだけどね。見放されたかと思ったよ」「申し訳ございません。でも狭衣さま、御降嫁の件もだんだんと具体的になってきておりますのに、いつになった…

狭衣物語13・予期せぬ出来事

数日後、狭衣は大宮のもとに出向き、上臈女房の中納言典侍を訪れた。大宮と親しい縁者で、幼い頃からお仕えしている女房だ。この中納言典侍の姉は、大弐と言う名で狭衣の乳母として仕えた者である。大弐乳母は夫とともに遠国に下向してしまったが、そういう…

狭衣物語12・飛鳥井女君の絶望と狭衣の後悔

狭衣さまの子供を身ごもっている事を知られないうちに死んでしまおう、飛鳥井女君がそう思い始めてから5日たった。船の上の生活が続いていたが、女君は水を見もしない。乳母を見るにつけ、こんな裏切りをするような者をよくも今まで頼みとしてきたことよ、…

狭衣物語11・乳母のたくらみ

狭衣の乳母子に道成という名の、式部の大夫でなかなかの色好みがいた。次の除目でどこかの国の守になる予定で、世間でも評判がよい人物である。この道成自身、常に「美しく、すぐれた女人をさがし出してみたいものだ」と言って、彼をぜひ婿にという声には耳…

狭衣物語10・狭衣との別れを決心した飛鳥井女君

訪問してみれば、狭衣の想像していたとおりで、飛鳥井女君は蔀もおろさず、端近に出て月をながめていた。そのたよりなさそうな様子に狭衣は思わず強く抱きしめて、逢えなかった時のあれこれを優しく語る。が、昼に見た源氏の宮の美しさを思い出し、『源氏の…

狭衣物語9・窮地に立たされた飛鳥井女君

この飛鳥井女君は、帥平中納言(大宰府長官と中納言を兼ねた平氏)の娘であった。両親は亡くなられたが、女君の乳母が主計頭(主計寮の長官)の妻で、夫が亡くなった後、不如意な生活を送っていたため、金儲けを狙って女君をあの仁和寺の威儀師に売りとばし…

狭衣物語8・狭衣と飛鳥井姫君との出逢い

狭衣の中将は、源氏の宮に恋心を打ち明けて以来、心晴れることもなく、忍び歩きでもすれば立ち直ることもあろうかと、いろいろ気をまぎらわせようとしてはみるものの、やはりあの、源氏の宮の手をとらえた感触が忘れられそうにない。 ある日、宮中へ出仕した…

狭衣物語7・父の説教

狭衣の中将は、源氏の宮に今まで抑えていた想いを告げてから、前よりいっそう恋慕に耐え難くなり、うつうつとした日を過ごすようになった。自分を受け入れてはくれなかった源氏の宮の事を考えると、もうこれ以上生きていけそうにない、そんなふうにただぼん…

狭衣物語6・狭衣、源氏の宮へ恋心を打ち明ける

やがて季節は変わり、暑い暑い夏がやってきた。水を恋い慕う水恋鳥のごとく、源氏の宮に焦がれる狭衣の恋心は募ってゆく。することもない夏の昼、狭衣は源氏の宮が住む対の屋に渡った。源氏の宮は白く涼しげな紗を着て、何か赤いお文を見ていたらしく、横を…

狭衣物語5・天に愛でられし狭衣を心配する人々

「宮中でなにかあったのか。騒がしいようだが」と堀川大殿が女房らに尋ねる。屋敷の蔵人の詰所に問い合わせると、家司が、「内裏でしかじかの事件がございましたようです。したがって狭衣様は帰邸が遅くなるかもしれません」と奏上した。大殿は、「なんたる…

狭衣物語4・雨夜の宴、天使降臨を誘う狭衣の笛の音

中宮方は、特に昔のような端午(たんご)の節会などは行われない夜で退屈だった。空模様も雨が降りそうな気配である。つれづれの慰めに、東宮と共に今上の御前に参り御物語などを始める。御前には、太政大臣の息子権中納言・左兵衛督・宰相中将などの若上達…

狭衣物語3・狭衣と飛鳥井姫君との出会い

やがて四月も過ぎ、五月になった。ある夕方、狭衣の中将は内裏から帰る途中、往来を行くどの男も菖蒲の根を腰に下げているのを見た。貴族や町家に売り歩く田舎男共だ。菖蒲を持ちすぎてもてあましているさまに、『…あれほどたくさん菖蒲を取るからには、どれ…

狭衣物語2・狭衣の君、光源氏の再来ともてはやされて

狭衣十八歳。今は二位の中将である。普通の若公達はこれくらいの年頃には中納言にもなるようだが。この狭衣の中将、光源氏もかくやと思われる位、万事にすぐれ過ぎており、かえって禍のもとになるかと両親はひどく心配している。和歌に音楽に手蹟に、類まれ…

狭衣物語1・美しい従妹姫への長年の恋心

『ともし火を背けては、ともに憐れむ深夜の月。 花を踏んでは同じく惜しむ、少年の春』 過ぎ行く春は留まらないもので、もう三月の二十日過ぎになってしまった。狭衣中将の邸の庭の木立も、どことなくのどかに青みがかってきた。池の中島で咲き誇る藤の花は…