鈴なり星

平安古典文学の現代語訳&枕草子二次創作小説のサイト

2023-03-26から1日間の記事一覧

狭衣物語24・後ろ髪を引かれる思いで粉河寺を離れ

深山に閉ざされた粉河寺の冬は寂しい。夜の間に固く冷たく降りた霜氷は歩み難く、神さびた苔に覆われた木々は魔性の物を宿らせているようで、その奥へと続く森の中へ狭衣を誘っている。誰に見られることなく枝葉を落とし、すっかり枯れ切ってしまった木々が…

仮面の女 その3

「とにかく、周防命婦に借金をしていた女官たちを挙げるのが先だな」公任がため息とともにつぶやく。「特に、まだ借金したまま返済していない女官を見つけないとね。これはなかなか口を割らないだろうなあ」金の弱みを握られた者同士の結束力は固い。口裏を…

仮面の女 その2

「もし他殺で、犯人が公卿なら、黙殺するかどうかを大臣殿と相談して決める」「冷たい奴だ。おまえは昔からそういう男だよ」「騒ぎ立てても詮ないことだろう。かえって馬鹿をみる。周防守もはらわたが煮えくり返る思いだろうが、そのへんはよくわきまえてい…

仮面の女 その1

斉信の屋敷で碁を打っていた公任のもとに検非違使佐(すけ)がやってきたのは、夜も更けた亥の刻だった。緊急の知らせとて、本来ならば、次官である佐が、そのまま検非違使別当・公任を伴って検非違使庁へ戻るのだが、斉信がヒマを持て余していたため、「佐…

小夜衣30・小夜衣の姫、幽閉される

さて、親しい方々が茫然自失で心配する中、かんじんの対の御方は捕らわれたままです。どこともわからぬ殺風景な部屋に閉じ込められてから、もう何日も経ってしまいました。尼君がどんなに心配しているか…これから私たちはどんなひどい目に遭わされるの…と考…