鈴なり星

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伊勢物語

 


イケメン天才歌人在原業平をめぐる恋愛エピソードを歌物語に仕立てて大ヒット。
千年以上の長きにわたって愛され続ける125章、それが伊勢物語。


 

伊勢物語の成り立ち


作者不詳。
成立年不詳。平安時代前期より中期にかけて現在流布しているかたちに完成していったとされています。
物語名の由来は、
・妹背(いもせ)物語が訛って伊勢(いせ)物語になった
・狩りの使いで伊勢斎宮を訪れた段が、この物語の一番人気だった
などの説があるようです。
この物語は決して事実ばかりを集めたものではなく、美しい虚構に満ちたあらゆる恋愛パターンを、超イケメンで血筋よろしく情熱的しかも男気にあふれた天才歌人という、天賦の才を4つも5つも与えられた在原業平を主人公にして作り上げた華麗なる歌絵巻なのです。


伊勢物語のあらまし


伊勢物語は藤原定家の写本「定家本」が現在流布しています。125段から構成され、「むかし男」の一代記を短い恋愛譚で描かれています。
伊勢物語の作者は証拠はありませんが、在原業平自身がまず「オリジナル伊勢物語」の数段を執筆し、その業平作品が核となり、結晶成長してゆくようにいろいろな人の作品によってどんどん大きくなり、平安時代中期には現在伝わる形に近い状態になっていたと推測されます。
上はお后・斎宮から下は召使・田舎女まで色とりどりの恋愛絵巻。王朝人の憧れるありとあらゆる恋愛パターンが、この美丈夫な業平を模した「むかし男」の上に収束している、と言って良いでしょう。


高子と斎宮の恋愛譚は事実か虚構か


平安時代、二条后高子は当時活発な文学サロンを持ち、業平はそのサロンの有力メンバーだったと言われています。
高子の目の前で”虚構として”昔日の恋をしのんだ和歌を詠み、彼女を大いに喜ばせたのではないでしょうか。
高貴な女性・伊勢斎宮との恋愛譚も虚構で、サロンの座の中で虚構の歌物語を披露し、皆で大いに楽しんだのではないでしょうか。
歌と歌物語の「みやびの力」は絶大なもので、業平自身の魅力と相まって、その「虚構」をくつがえすまでに至り、後世「事実」と認識されてしまったのではないかと考えられます。


伊勢物語についての私見


平安文学の中でも、源氏物語に次ぐと言い切れるほど、大きな大きな一角を占める伊勢物語。
それほど親しまれているにも関わらず、
・伊勢物語は眉目秀麗の絵になる男、在原業平の風流一代記?
・いつの時代かも誰の話なのかも作者は言及してない
・そもそも作者はおろか成立年すらわかってない
と実は不明ことが多いです。なのに、
「この”むかし男”は平安時代の歌人在原業平で、この物語は彼の愛の遍歴だと言われています」
というのが何となく正解の知識としてインプットされているのが現実。

伊勢物語には歌詠みの天才在原業平作の和歌が数多く見られます。天才歌人が詠む歌は、鬼を泣かせ天地をも動かし、何なら政治権力にも大いに利用された平安時代。美しい言葉を自在に操る歌仙というだけでも世間から大いに尊敬されるのに、加えて「三代実録」に記述され後世に報告されるくらい伝説のイケメン、それが在原業平なのです。
これら和歌をもとにステキな逸話をくっつけたお話が『歌物語』。和歌はたしかに業平本人の作でも、「物語」部分は後世の誰かが勝手に妄想した美しい短編かもしれない、あるいはいにしえより伝わる地方民話や古歌をもとにアレンジし直した短編もいくつもあるでしょう。
鎌倉時代の『伊勢物語知顕集』に「抱いた女は3733人」とチクられた業平。もちろん稀代のモテぶりを誇張した表現だと思われますが、眉目秀麗で絵になる伝説の風流人在原業平を華麗なるアイコンとして、数多な恋愛のバリエーションをその超人気アイコンの下に集めたのが伊勢物語なのではと思います。
業平の和歌と和歌の為に作られた125作の短編は、後世の文学はもちろんのこと、絵画や能、川柳や俳句、墨田名物「言問団子」に至るまで、千年以上どの時代も一流文化人やアーティストたちの創造力をかき立て続け、今に至っているのです。


伊勢物語 超現代語訳 目次


現代語訳はこちらです。
むかし男は「ムカ男(ムカオ)」と読んでください。

第1段   ムカ男、春日の里の女に手を出す
第2段   ムカ男、性格美人に手を出す
第3段   ムカ男、高子姫に手を出す
第4段   ムカ男、女に突然去られる
第5段   ムカ男、許されぬ逢瀬に夢中になる
第6段   ムカ男、駆け落ちする
第7段   伊勢の浪にムカ男の消息を聞く
第8段   浅間嶽にムカ男の消息を聞く
第9段   杜若&旅の僧&都鳥にムカ男の消息を聞く
第10段 ムカ男、田舎娘の母親から代作歌をもらう
第11段 ムカ男、旅の途中で友人へ消息を伝える
第12段 ムカ男、女を武蔵野に置いて逃げる
第13段 ムカ男、二股かけを白状する
第14段 蚕カップルになりたい女とムカ男の恋話
第15段 ムカ男、陸奥の雰囲気美人に手を出す
第16段 ムカ男、途方に暮れた舅に援助する
第17段 ムカ男、桜花を愛でる
第18段 ムカ男、風流ぶった女の挑発を受け流す
第19段 ムカ男の元カノ、切ない思い