鈴なり星

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第19段・ムカ男の元カノ、切ない思い

 

 

高貴なる御方のもとに出仕していたムカ男が、やはり同じ御方にお仕えしていた上﨟女房と恋仲になりました。
ところが、ふとしたことから二人は別れてしまいました。
お仕えしている御方が同じなので、二人は別れた後も近くで働いているのですが、女の方は御簾の中でムカ男は外。ムカ男の方から御簾の中は見えずとも、女の方からはムカ男の姿が見えるため、いつまでたっても女はムカ男をあきらめ切れません。ムカ男はとっくに女への関心がなくなったというのに。
思い余った女は、

天雲のよそにも人のなりゆくかさすがに目には見ゆるものから
(人って、天の雲のようにどんどんよそよそしくなってゆくのね…そうは言っても私にはその人が見えてるんだよね…)

と詠みました。ムカ男の返事は、

天雲のよそにのみしてふることはわがゐる山の風はやみなり
(その人がよそよそしく過ごしてばかりなのは、あなたの居る山の風が激しくて近づけないからでしょ?)

というものでした。
ムカ男たちが別れたわけは、その上臈女房に通う男が他にもいると、同僚たちが言っていたからだとか。


職場恋愛を清算した後の話っぽいのが第19段です。
職場恋愛のカップルが別れた後ってまあまあやっかいなもの。このムカ男と上臈女房は、職場恋愛どころかグループ内恋愛です。二人とも同じ主人にお仕えしているわけですから。
しかも彼女の方は納得して別れたわけではなさそう。
別れた後はサバサバして仕事に励んでいるムカ男と、それを御簾の向こうで見ている元カノ。毎日毎日姿を見せられては、忘れようにも忘れられないってことでしょう。
職場内で毎日ムカ男の勤務姿を見かけ、御簾の奥で宙ぶらりんな気持ちを嚙みしめ続ける元カノ。
ヘビの生殺し気分に耐えられず、ある日ムカ男に「よそよそしくなったあなたを見ているのがつらい」と手紙を送ります。これに対してムカ男は「風はやみが居るだろ」つまり慰めてくれる他の男がいるだろ、とそっけない返事。
おそらくこの段のムカ男は真面目で誠実、そして相手の彼女にも誠実さを求めるタイプ。二股をかけられ彼女への信頼を失ったムカ男は気持ちも新たに再出発です。
心の整理を終えたムカ男をこの彼女が振り向かせるのはムリなのでした。今カレに慰めてもらえば?