2024-01-01から1ヶ月間の記事一覧
姫の袴着の式の夜。堀川大殿が一条院に参上し、忙しい身ではありながらも、姫の腰結い役を心を込めて果たされた。隠し通してはいるが、実の子の成長を父親に祝福してもらえた狭衣は心の内でどれほど喜んだことか。その翌日は、若宮の袴着の儀式である。朝早…
「…やはりタチの悪いタヌキかイタチが化けたのでは」安堵しているのか不安なのかよくわからない声で則光が言います。「ははは。それならそれでもかまわないさ。とにかく花びらのような雪を約束してくれたのだから。さて、ずいぶん道草を喰ってしまった。山の…
「おかしいですね、道を間違えたのでしょうか。僧庵に行く途中にこんな泉があるなんて、聞いたことがありません」泉の水面には氷が張っていて、一箇所だけ氷にヒビが入っています。どうやら斉信のムチは、泉の底に沈んでしまったようでした。「おや?見たま…
今は昔、一条天皇の御世にイケメン蔵人頭がおりました。帝の信任も篤い彼の名は藤原斉信。今日は帝の御使いで、比叡山のえらいお坊さまの所までお出かけです。帝の持病である神経性胃炎がひどくなったため、ここのえらいお坊さまに祈祷を頼みに来たのです。…
一條の宮に住む若宮の御袴着の儀式が11月に行われることが決まった。現関白の堀川大殿も袴着の準備に追われていたが、その様子を見ていた狭衣は、一品宮のところにいる姫もそれほど若宮と年は違わないはず、できれば同じように袴着を祝ってあげたい、と思い…
ムカ男は、陸奥国でごく普通の人の妻のもとに通っていたのですが、その妻は、こんな辺鄙な土地には不釣合いなほど風情のある女でしたので、ムカ男は不思議に思って、しのぶ山忍びて通ふ道もがな人の心のおくも見るべく(近くにあるしのぶ山の名のように、こ…
ムカ男が武蔵の国のはるか奥、陸奥の国に出かけました。特に目的もない旅でしたが、たどり着いた土地で、ムカ男はそこに住むひとりの女にものすごく惚れられてしまいました。京の都の見慣れないお洒落な貴族を、女が大変めずらしく感じたからです。積極的な…
ムカ男は、京からはるばる東国へ下り、武蔵国に滞在していました。彼は京の都に妻を置いたままでした。ある日ムカ男はその妻のもとへ手紙を送りました。表書きに『むさしあぶみ』とあり、手紙には、『言うのも恥ずかしいことだが、正直に言わないと、そなた…