鈴なり星

平安古典文学の現代語訳&枕草子二次創作小説のサイト

2022-12-01から1ヶ月間の記事一覧

狭衣物語3・狭衣と飛鳥井姫君との出会い

やがて四月も過ぎ、五月になった。ある夕方、狭衣の中将は内裏から帰る途中、往来を行くどの男も菖蒲の根を腰に下げているのを見た。貴族や町家に売り歩く田舎男共だ。菖蒲を持ちすぎてもてあましているさまに、『…あれほどたくさん菖蒲を取るからには、どれ…

狭衣物語2・狭衣の君、光源氏の再来ともてはやされて

狭衣十八歳。今は二位の中将である。普通の若公達はこれくらいの年頃には中納言にもなるようだが。この狭衣の中将、光源氏もかくやと思われる位、万事にすぐれ過ぎており、かえって禍のもとになるかと両親はひどく心配している。和歌に音楽に手蹟に、類まれ…

狭衣物語1・美しい従妹姫への長年の恋心

『ともし火を背けては、ともに憐れむ深夜の月。 花を踏んでは同じく惜しむ、少年の春』 過ぎ行く春は留まらないもので、もう三月の二十日過ぎになってしまった。狭衣中将の邸の庭の木立も、どことなくのどかに青みがかってきた。池の中島で咲き誇る藤の花は…

小夜衣1・ハイスペック貴公子、気の毒な身の上の姫の存在を知る

いつの年も五月雨の季節といえば、降りやむことのない雨をうっとうしく感じるものですが、今年も同じく、連日のように降り続く雨で京の都はしっとりと薄闇に閉ざされたようです。兵部卿宮のお邸でも、宮の無聊を慰めるために、友人方が連日集まってなんだか…