面をつけて顔を隠した瞬間、新しい人格が生まれる…ということは本当にあるのかもしれない。先ほどまで陽気な笑顔で軽口を叩いていた斉信は、眼光鋭く鼻の高い異国風の面で顔を覆った瞬間から、おのが日常性を消し、別の人格を浮き上がらせた。超自然的な容貌…
民部少輔の家のうす暗い監禁部屋で皆が喜び合っている一方、姫君たちの居場所を知らされた宰相の君は考え込んでいました。開いた口がふさがらないような今北の方のたくらみ。はかなげで弱々しそうな姫君なのに、つらい仕打ちに長期間よくぞ耐えぬかれたこと…
何年も訪ねて来なかった人が、桜の花が真っ盛りの時期にふいに桜を見にやってきましたので、その家の主人が歌を詠みかけました。あだなりと名にこそたてれ桜花年にまれなる人も待ちけり(つれなく散って行く桜の花も、めったに来ないあなたのことをけなげに…
むかし、紀の有常という人がいました。仁明・文徳・清和と三代の帝にお仕えし、裕福な名家でしたが、晩年になって時勢も変わり、傍流となってしまいました。権力の切れ目は縁の切れ目。かつて時めいていた有常はすっかり落ち目となって、ごく平凡な貴族より…
さて、夫に内緒で屋敷を抜け出した民部少輔の妻は、伯母のいる家に駆け込み、「伯母さまがお仕えしている宰相の君に今すぐお目にかかりたい、連れて行って欲しい」と訴えました。尋常ならぬ姪の様子に驚いた伯母の中務は、大急ぎで車に乗りこみ、宰相の君の…
少し不機嫌な薫の問いかけに、小君は困ってしまいました。「別人だったとごまかしておくれ」とつらそうな顔で必死で頼んでいた姉上のことを考えると、真実を報告するのがためらわれます。かといって、自分たち姉弟ごときがごまかしたところで、いずれ事情は…