鈴なり星

平安古典文学の現代語訳&枕草子Web小説のサイト

小夜衣49・今上、恋の葛藤の果てに

さて、兵部卿宮に姫君を連れさられてしまった山里の家では、気の毒な尼君が按察使大納言に怒りを訴えていました。「数ヶ月も行方不明だったのがようやく戻ってきてくれたと安堵しておりましたのに、宰相の君が『山里の姫はたいそうお美しくて』と噂していた…

山路の露10 逢瀬が終わり…二人をつなぐ手紙は

短い逢瀬も終わりです。夜が明けぬうちに戻らねばなりません。「浮舟。一晩語ってみたところで、納得できたことは何一つなかったよ。わだかまりも何一つ解けていない。それがつたない我が身への咎だとしても、やはりつらくてやりきれない。仏の道を求める心…

狭衣物語55・出家の夢やぶれて…

一人息子の出家を引き留めさせてくれた賀茂大明神へのお礼の参詣が近づいたある日、大殿が見た夢のお告げの内容を、母堀川の上は狭衣に詳しく伝えた。「そうだったのか…賀茂の明神は、斎院への抑え切れない私の恋慕をお咎めにもならないで、お引止めくださっ…

小夜衣47・東雲の宮、涙の再会から驚きの行動へ

幽閉状態からようやく自由の身になれたとはいえ、いまだショックから立ち上がれない山里の姫君は、几帳をするりと割って入ってきた殿方が誰なのか、初めはわかりませんでした。が、殿方の影がそばに寄り添うと、幽閉されていたときにつきまとわれていた民部…

斉信、公任の悪夢を見る

斉信は、いま自分がどこにいるのか皆目分からなかった。あたりはうす暗く、自分の足元には地面の感触が無い。寒くもなく暑くもなく、おまけに着物すら身に付けていないのではないか、と感じていた。肌にあたるはずの布の感触すらない。「私はどこにいるんだ……

遠雷

北西の、はるか彼方の方向に稲光のよく見える夏の宵。かなとこ状の雄大な雷雲の中に稲妻が走り、しばらくして低いかすかな雷鳴が聞こえた。稲光が輝くたび雷雲が夕空に何度も浮かび上がる。発光から雷鳴までの間隔の長さが、これが遠雷であることを示してい…