高貴なる御方のもとに出仕していたムカ男が、やはり同じ御方にお仕えしていた上﨟女房と恋仲になりました。ところが、ふとしたことから二人は別れてしまいました。お仕えしている御方が同じなので、二人は別れた後も近くで働いているのですが、女の方は御簾…
むかし、中途半端に風流ぶっている女がいました。その女はムカ男の家の近くに住んでいました。女は、そこそこ歌を詠めるつもりでいましたので、ムカ男の風流さを試してやろうと思い、ある日、盛りを過ぎて色あせたうつろい菊に歌を添え、ムカ男のもとに送り…
俺さまの名前は黄泉の国三途の守。さまよえる亡者をあの世の入り口に引き渡すのが仕事だ。三途の川辺で舟の手入れをしていると、彼方からトボトボと四人の男がやってきた。俺は本日の乗船予定欄に目をやる。「藤原清貫(きよつら)さんと、平希世(たいらの…
その年の終わりには、常磐の里にて故・飛鳥井の女君のための供養を行った。かの女君への真心を、どれほど尽くしても尽くし足りないくらいの想いで盛大に執り行う。経巻や仏像の装飾はもちろんのこと、講師には比叡山延暦寺の首座の僧を招き、当日の法会に招…
面をつけて顔を隠した瞬間、新しい人格が生まれる…ということは本当にあるのかもしれない。先ほどまで陽気な笑顔で軽口を叩いていた斉信は、眼光鋭く鼻の高い異国風の面で顔を覆った瞬間から、おのが日常性を消し、別の人格を浮き上がらせた。超自然的な容貌…
民部少輔の家のうす暗い監禁部屋で皆が喜び合っている一方、姫君たちの居場所を知らされた宰相の君は考え込んでいました。開いた口がふさがらないような今北の方のたくらみ。はかなげで弱々しそうな姫君なのに、つらい仕打ちに長期間よくぞ耐えぬかれたこと…