鈴なり星

平安古典文学の現代語訳&枕草子二次創作小説のサイト

2023-03-04から1日間の記事一覧

狭衣物語20・源氏の宮の入内の行方は

大嘗会の女御代に選定された後そのまま入内…そんな話を聞くにつけ、狭衣はいよいよ絶望的な気持になり、ああもう本当に今度こそ出家の志を遂げてこの世の憂さから解放されたいものだ、だが積年のくすぶり続けた想いをどうしてくれよう、いっそのこと契りを結…

狭衣物語19・今上の譲位、そして出家

夏になって、帝はご気分がすぐれない日が続いて病がちになった。譲位をほのめかすようになり、退位後は出家して、嵯峨の小倉山のふもとに造営しておかれた御堂にて静かに勤行したいものだと思われる。次代の東宮になるべき一の宮(坊門上と堀川大殿の娘であ…

それぞれの矛盾Part3

行成は立ち上がり、斉信の横に座り直した。「斉信。悩んでいないで打ち明けてみませんか。きっと大丈夫。結果、自分は何を恐れていたんだろうかと馬鹿馬鹿しくなりますよ」「取り返しのつかなくなる場合だってあるよ」「では思い切って、一度壊してみてはど…

それぞれの矛盾Part2

「最初はね、よく似ている人を好きになればきっと忘れられると思ったんだ。顔立ちの似ている人、心ばえの似ている人…違う、と感じたらすぐに乗り換えた。でもね、とてもよく似ていても、一部分でも違う面を見てしまえば、たちまち醒めてしまう。それでね、今…

それぞれの矛盾 その2

「やあ行成。ひ・さ・し・ぶ・りっ」先触れがあってしばらくしてから斉信が几帳の向こうから顔をのぞかせた。斉信が我が家に来るのは久しぶりのことだ。「ひさしぶり…って毎日宮中で一緒じゃないですか」「君ん家に遊びに来たのが、だよ。といっても20日ぶり…

それぞれの矛盾 その1

行成だ。あいも変わらず忙しい毎日だが、諸用に振り回され己を磨く時間もないなどとほざくようでは、一人前の貴族は勤まらない。自分のことを無能とは思わないが、努力を怠るようであれば、すぐに足元をすくわれ、信頼を失うのは想像に難くない。ハイソサエ…

僕が左遷された理由(わけ) その3

狼藉をはたらいた本人は、自邸から逃亡する気はさらさら無いが、あらゆる出入り口は検非違使庁の派遣した武士たちに囲まれた。数刻後、闇にまぎれてもう一人の蔵人頭が馬を飛ばしてやってきて、武士たちの間をすりぬけて、屋敷の中へ入っていった。「斉信殿…

僕が左遷された理由(わけ) その2

「だんなさま!大変でございます。頭中将さまが、血相変えてこちらに向かってきております。…ああっ来られました。先触れに中将さまが追いついてしまわれて」女房がこけつまろびつ大あわてで俊賢に取り次いだ。ここは源俊賢の屋敷。今夜は特に予定も入ってい…

僕が左遷された理由(わけ) その1

藤原行成の蔵人頭としての評価は、公卿たちの間では大変高い。精励を極めた勤務ぶり、事務処理の要領のよさ。清廉潔白な人柄は、常にひかえめな黒子役に徹する態度から押し測れようというもの。就任当時、『地下人が、どのようなコネを利用して俊賢殿にとり…

思考青年 その2

爽やかな若草の香りがする。雨がやんだのかな。あれ?私は寝てたのか。たしか行成が調査報告書のことで来てたよな。斉信はしょぼくれた目をこすって壺庭を見ると、やはり相変わらず雨は降り続けている。「私は寝てたのか。…なんだい?それ」床の上に折敷が置…

思考青年 その1

開け放した御簾の向こうの前栽に、雨に濡れた菖蒲の群れが見える。五月の長雨に乾くひまもないその花びらは、涙に濡れた高貴な女人の袖のようで、同じ紫でも、日の光を受けて耀く藤の花とはまた違った風情がある。ああ、うっとうしいなあ…。それまで書き物を…

小夜衣25・ゴシップに興味津々な女房たち

その後も、今上はせっせと梅壺に渡っては、つれづれのなぐさめに楽器を合わせたりなさいます。対の御方に筝の琴を弾かせ、今上自身は笛を吹いたりするのですが、お二人の合奏を快く思わない女御は、今上に琵琶を勧められても手もつけようとしません。仕方が…

小夜衣24・今上の隠しきれない恋心

五節の舞のあとは管弦の宴です。昼と間違えるような明かりの中、名だたる殿上人や女房たちが楽器をかき鳴らし、華やかに夜が更けてゆきます。そんな中、ただ一人東雲の宮だけがしょんぼりと座っています。「今頃御簾の内のどこかにいらっしゃるのだろうか。…