2024-03-01から1ヶ月間の記事一覧
俺さまの名前は黄泉の国三途の守。さまよえる亡者をあの世の入り口に引き渡すのが仕事だ。三途の川辺で舟の手入れをしていると、彼方からトボトボと四人の男がやってきた。俺は本日の乗船予定欄に目をやる。「藤原清貫(きよつら)さんと、平希世(たいらの…
その年の終わりには、常磐の里にて故・飛鳥井の女君のための供養を行った。かの女君への真心を、どれほど尽くしても尽くし足りないくらいの想いで盛大に執り行う。経巻や仏像の装飾はもちろんのこと、講師には比叡山延暦寺の首座の僧を招き、当日の法会に招…
面をつけて顔を隠した瞬間、新しい人格が生まれる…ということは本当にあるのかもしれない。先ほどまで陽気な笑顔で軽口を叩いていた斉信は、眼光鋭く鼻の高い異国風の面で顔を覆った瞬間から、おのが日常性を消し、別の人格を浮き上がらせた。超自然的な容貌…
民部少輔の家のうす暗い監禁部屋で皆が喜び合っている一方、姫君たちの居場所を知らされた宰相の君は考え込んでいました。開いた口がふさがらないような今北の方のたくらみ。はかなげで弱々しそうな姫君なのに、つらい仕打ちに長期間よくぞ耐えぬかれたこと…
何年も訪ねて来なかった人が、桜の花が真っ盛りの時期にふいに桜を見にやってきましたので、その家の主人が歌を詠みかけました。あだなりと名にこそたてれ桜花年にまれなる人も待ちけり(つれなく散って行く桜の花も、めったに来ないあなたのことをけなげに…