鈴なり星

平安古典文学の現代語訳&枕草子Web小説のサイト

古今著聞集・興言利口17 576~578段

576段 高倉宰相茂通と栄性法眼と交友・放逸の事 後嵯峨院の院政時。年来の親友だった宰相藤原(高倉)茂通と栄性法眼は後嵯峨院の住む亀山殿で仲良く宿直し、互いに誘い合っては親しく交遊する仲だった。ある時、茂通卿が栄性法眼の邸を訪ねたことがあったが…

狭衣物語49・さようなら入道の宮…狭衣の決意

もうすぐ夜明け。まもなく、嵯峨院が後夜の勤行(午前四時頃)のために起床される時間である。いつもならこの時間の入道の宮は念仏に専念しているはずなのに、今日は血の気が失せるような思いで狭衣と対面している。尼となられた宮を今さらこんなに惑わせて…

古今著聞集・興言利口16 575段

575段 佐実、仲正の愛人沙金をめぐって乱闘し髻を切られる事 堀河天皇の御世、国母である中宮賢子のもとに沙金(砂金)と言う名のとびっきり美しい召使いがいた。兵庫頭で武士の源仲正(源仲政)がこの砂金を寵愛し、とても大事にしていた。ある日、関白の先…

手紙

『 拝啓 藤原斉信殿 斉信殿。お元気ですか。立秋もとうに過ぎましたが、都は相変わらず真夏の蒸し暑い空気がたちこめて、皆様方におかれましてはさぞ暑さにあえいでいることと存じます。こちらはやはり北国、立秋の少し前あたりから夜にはもう涼しげな風が吹…

古今著聞集・興言利口15 572~574段

572段 閑院火災の翌日、宮左衛門某が火事見舞いを口上の事 建長元年(1249)正しくは宝治3年2月1日、当時の里内裏だった閑院が火災により全焼した。火災の翌日、宮の左衛門なにがしとか言う者が、大納言源通方の娘で後嵯峨院大納言二品女房源親子のもとに現…

古今著聞集・飲食6 635~636段

635段 新蔵人邦時、新任披露の祝宴で奔走する事 順徳天皇の治世時、源邦時という者が新しく蔵人に昇進し、その昇進を披露する祝宴(分配という)が行われた。祝宴には六位蔵人のうち最古参から下っ端まで参加し、清涼殿の殿上の間の南にある侍臣の詰所の下侍…

公任、ムカデ退治に巻き込まれる その2

――それから四半時もしないうちに。ダンッ!ダンダンッ!ダンダンダンッ!ダダン!!バシッ!バシバシッ!バンバンバンッ!!床を踏み鳴らす荒々しい足音と、何かを叩くような音が聞こえてきた。その暴力的な音に混じって、女の泣き叫ぶ声と男の怒声も聞こえ…

公任、ムカデ退治に巻き込まれる その1

公任は前方を行く一行を眺めている。彼の視線の先には、枯れ草を山のように抱えている頭の中将とその部下数人が歩いていた。(どうしてもっとサクサク歩かないんだ。追い越さなきゃならないじゃないか。うーんシカトして追い越そうか。あんな荷物を抱えてい…

古今著聞集・飲食5 632~634段

632段 右大臣徳大寺実定、屋敷に池庭を構えて酒宴する事 文治3年(1187)の話。当時右大臣だった左大臣藤原実定公は自邸の徳大寺の屋敷に池庭を造り、中御門左大臣藤原経宗公をお招きした。当時右大将だった藤原実房と、検非違使別当だった藤原頼実が従者と…

古今著聞集・飲食4 626~631段

626段 保延6年10月白河の仙洞に行幸の事 前段と同じ保延6年(1140)10月、鳥羽上皇の住む仙洞御所へ崇徳天皇の行幸があった。御前にて晩酌のおり、当時右兵衛の督だった藤原家成卿に包丁式で鯉をさばくように、との沙汰があった。家成卿は辞退したのだが、そ…

小夜衣43・座敷牢からの奇跡の解放

外の景色もまともに見えない奥まった狭い部屋に、姫と女房ら三人が身を寄せ合って座っていました。大納言は姫の姿を見るなり駆け寄り、「姫、姫や。ああなんてひどい所に。よくがんばりましたね。この父が来たからには、苦しいこともつらい目ももうお終いで…

狭衣物語48・追い込まれた入道の宮と狭衣の苦悩

落飾直後の女二の宮をこんなふうに追い詰めて、逃げられた事があったな――狭衣は思い出していた。あの時も月の美しい夜だった。同じように鍵をかけ忘れた格子を開け、同じように寝所に忍び込んだのだ。あの夜はあと少しのところで逃げられてしまったが、今回…

狭衣物語47・不穏な訪問者

九月。嵯峨院にて入道の宮が主催する曼荼羅供養が行われることになった。法華八講も行われ、準備のため堀川大殿も嵯峨院に忙しく日参している。朝夕交替して誦する僧なども入道の宮が厳選し、厳しい修行に耐え声の特に良い者だけを選んだ。仏具の飾りなども…

第22段 破局の危機を乗り越えて

ある時ムカ男は、ほんのささいな出来事から女と疎遠になってしまったことがありました。女のほうは、結局のところムカ男のことが忘れられなかったんでしょう。しばらく経ってから、こんな歌をムカ男に寄越しました。憂きながら人をばえしも忘れねばかつ恨み…

近江の君(源氏物語)、トイレ係になる

こんにちは!あたし近江っていいまーす。皆には近江の君って呼ばれています。とうとう女御さまにお仕えするお許しが出たわ!弘徽殿女御さまが宿下がりなさってる期間限定の行儀見習いだけど。でもお役に立てる働きぶりなら、憧れの尚侍も夢じゃないかも!私…

狭衣物語46・女一の宮の懐妊と狭衣の不安

しばらくして、女一の宮につわりの兆候が見え始めた。お側仕えの者たちは、大変に重大、かつ、めでたいことであるだけに、事を慎重に運ばねばとはっきりするまでは大殿にも今上にも申し上げなかった。三ヵ月になる前に大殿には報告したが、女一の宮の体調が…

第21段・ムカ男、相思相愛からの破局

ムカ男には相思相愛の女がいました。まわりがよく見えないくらいの、それはそれは熱々カップルだったのですが、何があったのか、ほんのちょっとしたことがもとで、カッとなった女はムカ男のもとを飛び出してしまいました。女は出がけに当てつけのような歌を…

狭衣物語45・嵯峨院の女一の宮、堀川の後見で入内へ

今上には多くの女御がいたが、格別に寵愛深いという女御はいない。まだ東宮であった時に入内した宣耀殿の女御には特にこまやかな心配りをなされるが、いまだ御子に恵まれないために后の位になる事ができない。今上は三十路。いまだに一人の御子も生まれない…

第20段・ムカ男、愛の深さを楓の新芽に託す

ムカ男が大和の国に滞在中、とある女を好きになって逢う仲になりました。 ムカ男は都で内裏にお仕えする人でしたので、そのうち都に戻らねばならなくなりました。ときは春浅い三月。ムカ男が京に戻る途中の道には楓(カエデ)の赤く鮮やかな新芽があちこちに…

小夜衣42・按察使大納言の来訪に戸惑う民部少輔

大納言はさっそく動き始めました。先触れせずに民部少輔の家を訪ねたのです。「おかしい。いつもの方違えでは必ず事前に連絡が入るのに、ご訪問が突然すぎる」家主の少輔はどれほどあわてたことか。対する大納言は、顔色を失ってもてなしをする民部少輔をじ…

狭衣物語44・源氏の宮、斎院としての新たな出発

本院に到着した斎院は、自分がこれから後ずっと住むことになる本院を改めて見渡してみた。広かった堀川邸とは違う、ひっそりとした住まい。幼いころから馴染んだ堀川邸の広大な庭の木々や池はもう見られないのだと思うと、たまらなくさみしい気持におそわれ…

狭衣物語43・神の妻となる源氏の宮、狭衣の慟哭

明けた今年。斎院が宮中にある初斎院から紫野本院に渡御する。堀川大殿がたいそう気を配って斎院の住居となる本院を磨いているので、今年の賀茂祭りは今から何となく様子が違い、例年に増して華やかなものが期待できそうだ。祭り当日の飾りは、それこそ馬や…

第19段・ムカ男の元カノ、切ない思い

高貴なる御方のもとに出仕していたムカ男が、やはり同じ御方にお仕えしていた上﨟女房と恋仲になりました。ところが、ふとしたことから二人は別れてしまいました。お仕えしている御方が同じなので、二人は別れた後も近くで働いているのですが、女の方は御簾…

第18段・ムカ男、風流ぶった女の挑発を受け流す

むかし、中途半端に風流ぶっている女がいました。その女はムカ男の家の近くに住んでいました。女は、そこそこ歌を詠めるつもりでいましたので、ムカ男の風流さを試してやろうと思い、ある日、盛りを過ぎて色あせたうつろい菊に歌を添え、ムカ男のもとに送り…

三途の守、清涼殿の落雷被害者を乗せる

俺さまの名前は黄泉の国三途の守。さまよえる亡者をあの世の入り口に引き渡すのが仕事だ。三途の川辺で舟の手入れをしていると、彼方からトボトボと四人の男がやってきた。俺は本日の乗船予定欄に目をやる。「藤原清貫(きよつら)さんと、平希世(たいらの…

狭衣物語42・飛鳥井の女君の供養の夜に…

その年の終わりには、常磐の里にて故飛鳥井女君のための供養を行った。かの女君への真心を、どれほど尽くしても尽くし足りないくらいの想いで盛大に執り行う。経巻や仏像の装飾はもちろんのこと、講師には比叡山延暦寺の首座の僧を招き、当日の法会に招かれ…

仮面

面をつけて顔を隠した瞬間、新しい人格が生まれる…ということは本当にあるのかもしれない。先ほどまで陽気な笑顔で軽口を叩いていた斉信は、眼光鋭く鼻の高い異国風の面で顔を覆った瞬間から、おのが日常性を消し、別の人格を浮き上がらせた。超自然的な容貌…

小夜衣41・姫君救出計画

民部少輔の家のうす暗い監禁部屋で皆が喜び合っている一方、姫君たちの居場所を知らされた宰相の君は考え込んでいました。開いた口がふさがらないような今北の方のたくらみ。はかなげで今にも消え入りそうな姫君なのに、つらい仕打ちに長期間よくぞ耐えぬか…

第17段 ムカ男、桜花を愛でる

何年も訪ねて来なかった人が、桜の花が真っ盛りの時期にふいに桜を見にやってきましたので、その家の主人が歌を詠みかけました。あだなりと名にこそたてれ桜花年にまれなる人も待ちけり(つれなく散って行く桜の花も、めったに来ないあなたのことをけなげに…

第16段 ムカ男、途方に暮れた舅に援助する

むかし、紀の有常という人がいました。仁明・文徳・清和と三代の帝にお仕えし、裕福な名家でしたが、晩年になって時勢も変わり、傍流となってしまいました。権力の切れ目は縁の切れ目。かつて時めいていた有常はすっかり落ち目となって、ごく平凡な貴族より…