鈴なり星

平安古典文学の現代語訳&枕草子二次創作小説のサイト

2024-01-01から1年間の記事一覧

狭衣物語43・神の妻となる源氏の宮、狭衣の慟哭

明けた今年。斎院が宮中にある初斎院から紫野本院に渡御する。堀川大殿がたいそう気を配って斎院の住居となる本院を磨いているので、今年の賀茂祭りは今から何となく様子が違い、例年に増して華やかなものが期待できそうだ。祭り当日の飾りは、それこそ馬や…

第19段・ムカ男の元カノ、切ない思い

高貴なる御方のもとに出仕していたムカ男が、やはり同じ御方にお仕えしていた上﨟女房と恋仲になりました。ところが、ふとしたことから二人は別れてしまいました。お仕えしている御方が同じなので、二人は別れた後も近くで働いているのですが、女の方は御簾…

第18段・ムカ男、風流ぶった女の挑発を受け流す

むかし、中途半端に風流ぶっている女がいました。その女はムカ男の家の近くに住んでいました。女は、そこそこ歌を詠めるつもりでいましたので、ムカ男の風流さを試してやろうと思い、ある日、盛りを過ぎて色あせたうつろい菊に歌を添え、ムカ男のもとに送り…

三途の守、清涼殿の落雷被害者を乗せる

俺さまの名前は黄泉の国三途の守。さまよえる亡者をあの世の入り口に引き渡すのが仕事だ。三途の川辺で舟の手入れをしていると、彼方からトボトボと四人の男がやってきた。俺は本日の乗船予定欄に目をやる。「藤原清貫(きよつら)さんと、平希世(たいらの…

狭衣物語42・飛鳥井の女君の供養の夜に…

その年の終わりには、常磐の里にて故・飛鳥井の女君のための供養を行った。かの女君への真心を、どれほど尽くしても尽くし足りないくらいの想いで盛大に執り行う。経巻や仏像の装飾はもちろんのこと、講師には比叡山延暦寺の首座の僧を招き、当日の法会に招…

仮面

面をつけて顔を隠した瞬間、新しい人格が生まれる…ということは本当にあるのかもしれない。先ほどまで陽気な笑顔で軽口を叩いていた斉信は、眼光鋭く鼻の高い異国風の面で顔を覆った瞬間から、おのが日常性を消し、別の人格を浮き上がらせた。超自然的な容貌…

小夜衣41・姫君救出計画

民部少輔の家のうす暗い監禁部屋で皆が喜び合っている一方、姫君たちの居場所を知らされた宰相の君は考え込んでいました。開いた口がふさがらないような今北の方のたくらみ。はかなげで弱々しそうな姫君なのに、つらい仕打ちに長期間よくぞ耐えぬかれたこと…

第17段 ムカ男、桜花を愛でる

何年も訪ねて来なかった人が、桜の花が真っ盛りの時期にふいに桜を見にやってきましたので、その家の主人が歌を詠みかけました。あだなりと名にこそたてれ桜花年にまれなる人も待ちけり(つれなく散って行く桜の花も、めったに来ないあなたのことをけなげに…

第16段 ムカ男、途方に暮れた舅に援助する

むかし、紀の有常という人がいました。仁明・文徳・清和と三代の帝にお仕えし、裕福な名家でしたが、晩年になって時勢も変わり、傍流となってしまいました。権力の切れ目は縁の切れ目。かつて時めいていた有常はすっかり落ち目となって、ごく平凡な貴族より…

小夜衣40・民部少輔の妻の告発

さて、夫に内緒で屋敷を抜け出した民部少輔の妻は、伯母のいる家に駆け込み、「伯母さまがお仕えしている宰相の君に今すぐお目にかかりたい、連れて行って欲しい」と訴えました。尋常ならぬ姪の様子に驚いた伯母の中務は、大急ぎで車に乗りこみ、宰相の君の…

山路の露6・心中複雑な小君が選択したのは…

少し不機嫌な薫の問いかけに、小君は困ってしまいました。「別人だったとごまかしておくれ」とつらそうな顔で必死で頼んでいた姉上のことを考えると、真実を報告するのがためらわれます。かといって、自分たち姉弟ごときがごまかしたところで、いずれ事情は…

山路の露5・真夜中の火事騒ぎと小君の困惑

主人の薫に急いで戻るよう命じられていたのに、深夜になって屋敷に到着した小君一行。門は固く閉ざされ、誰も起きている気配がありません。姉上の事は明日参上してお話しよう、今夜はもう帰ろう…疲れていた小君は、家に帰って早く休みたいと思いましたが、薫…

狭衣物語41・恋しい人の移り香する猫が羨ましくて…

話は一品宮に戻る。常磐の尼君の娘が、故飛鳥井の女君の子に付き添って、一条院に上がり女房となった。その娘は一条院では小宰相の君と呼ばれている。狭衣は、亡き飛鳥井の女君を懐かしがりたい時や子どもの事が話したくてたまらない時、他の女房には目もく…

狭衣物語40・出生の秘密を背負った子供たちの袴着

姫の袴着の式の夜。堀川大殿が一条院に参上し、忙しい身ではありながらも、姫の腰結い役を心を込めて果たされた。隠し通してはいるが、実の子の成長を父親に祝福してもらえた狭衣は心の内でどれほど喜んだことか。その翌日は、若宮の袴着の儀式である。朝早…

空の贈り物 その3

「…やはりタチの悪いタヌキかイタチが化けたのでは」安堵しているのか不安なのかよくわからない声で則光が言います。「ははは。それならそれでもかまわないさ。とにかく花びらのような雪を約束してくれたのだから。さて、ずいぶん道草を喰ってしまった。山の…

空の贈り物 その2

「おかしいですね、道を間違えたのでしょうか。僧庵に行く途中にこんな泉があるなんて、聞いたことがありません」泉の水面には氷が張っていて、一箇所だけ氷にヒビが入っています。どうやら斉信のムチは、泉の底に沈んでしまったようでした。「おや?見たま…

空の贈り物 その1

今は昔、一条天皇の御世にイケメン蔵人頭がおりました。帝の信任も篤い彼の名は藤原斉信。今日は帝の御使いで、比叡山のえらいお坊さまの所までお出かけです。帝の持病である神経性胃炎がひどくなったため、ここのえらいお坊さまに祈祷を頼みに来たのです。…

狭衣物語39・姫の袴着であせる狭衣と一品宮の思いやり

一條の宮に住む若宮の御袴着の儀式が11月に行われることが決まった。現関白の堀川大殿も袴着の準備に追われていたが、その様子を見ていた狭衣は、一品宮のところにいる姫もそれほど若宮と年は違わないはず、できれば同じように袴着を祝ってあげたい、と思い…

第15段 ムカ男、陸奥の雰囲気美人に手を出す

ムカ男は、陸奥国でごく普通の人の妻のもとに通っていたのですが、その妻は、こんな辺鄙な土地には不釣合いなほど風情のある女でしたので、ムカ男は不思議に思って、しのぶ山忍びて通ふ道もがな人の心のおくも見るべく(近くにあるしのぶ山の名のように、こ…

第14段 蚕カップルになりたい女とムカ男の恋話

ムカ男が武蔵の国のはるか奥、陸奥の国に出かけました。特に目的もない旅でしたが、たどり着いた土地で、ムカ男はそこに住むひとりの女にものすごく惚れられてしまいました。京の都の見慣れないお洒落な貴族を、女が大変めずらしく感じたからです。積極的な…

第13段 ムカ男、二股かけを白状する 

ムカ男は、京からはるばる東国へ下り、武蔵国に滞在していました。彼は京の都に妻を置いたままでした。ある日ムカ男はその妻のもとへ手紙を送りました。表書きに『むさしあぶみ』とあり、手紙には、『言うのも恥ずかしいことだが、正直に言わないと、そなた…