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狭衣物語

 

 

関白の一人息子・狭衣と五人の女君たちが織りなす、憂愁に満ちた恋愛物語。

 

狭衣物語の成り立ち


作者:六条斎院宣旨。後朱雀天皇皇女禖子(ばいし)内親王付き女房。乳母か。
成立年:1060~1070年あたりが有力。

この物語は政治・内裏周辺の描写や雑事が少ないのに対し、斎院周辺の出来事が非常に細かく正確に書かれているのが特徴である。作者が斎院関係者であるのは明らかで、作者の主人の斎院禖子内親王と同僚女房たちをなぐさめるべく、源氏物語を追慕する物語を制作したのではないか。


狭衣物語のあらすじ


当帝と兄弟である堀川関白の一人息子・狭衣と五人の女君たちが織りなす、宿世と憂愁に満ちた恋愛物語。
狭衣は、兄妹のように育てられた従妹の源氏の宮を人知れず恋しているが、拒絶され続ける。その傷心を、偶然出逢った飛鳥井の女君に慰められるが、身分低い女君に素性すら明かさない。狭衣を信頼しきれない女君は、身重の体で自分の乳母にだまされ筑紫へさらわれそうになり、船上で入水を決意する。
帝の鍾愛の皇女・女二の宮と婚約した狭衣であったが、気が進まず拒否し続けながらも、あろうことか強引に契りを交わし、宮は懐妊してしまう。狭衣の誠意を疑う宮と、後悔と未練にさいなまれる狭衣。
一方、ご神託により、源氏の宮は賀茂の斎院へ。
厭世の思いで参詣した粉河寺で、狭衣は飛鳥井の女君の身内である僧に偶然出会う。
女君の忘れ形見の女児会いたさに、女児が引き取られた皇女一品宮の邸に忍び込んだところを目撃され、心ならずも一品宮と結婚しなければならなくなる。
夫婦仲は、終生冷めきったものであった。
運命のつれなさに出家を決意した狭衣だったが、賀茂明神のお告げにより、父関白が出家を阻止する。
現世を生きるしかない狭衣は、源氏の宮にうりふたつの式部卿の宮の姫君に慰めを見出す。
天照大神のお告げで狭衣は即位。だが、帝位の栄光とは裏腹に、狭衣の憂愁は尽きないのであった。

 

狭衣物語についての私見


『狭衣物語』は、源氏物語の摸倣・再現が目的で作られています。源氏物語の数多の名場面をこれでもかと取り込んでいる、 非常に美しい文体の作品です。
独創性のある新奇の物語より、『源氏』の読後感を味わわせてくれる作品を、当時の読者層が要求していたからに他なりません。 しかし主人公である狭衣は、光源氏のように次から次へ快活に姫君のあいだを渡り歩く、恋の狩人的な性格を与えられているわけではなく、躊躇と不決断に満ち、はつらつさもなく、不本意の場合に拒否するという意志もない、そんな人物設定がされています。現代では人格破綻者と言われそうですが、これが当時の京の貴族社会の典型的理想人物像。身分階級がギッチギチに決まってて動かしようのない現実に、抵抗することを忘れてしまった公達たちの姿だったのです。


狭衣物語の登場人物紹介

 

 登場人物 狭衣:この物語の主人公。後に帝となる。
源氏の宮:先帝と中納言娘との子。堀川夫妻の養女。
堀川大殿:狭衣の父。故院の息子。当帝と兄弟。
堀川上:大殿の北の方。先帝の兄妹。
坊門上:堀川大殿の妻の一人。式部卿宮の娘。
洞院上:堀川大殿の妻の一人。太政大臣の娘。
当帝:後に出家して嵯峨院となる。
皇太后宮:大宮。当帝との間に姫宮が三人いる。
女二の宮:当帝と皇太后宮の皇女。
     狭衣の子を出産した後出家。入道の宮。
若宮:狭衣と女二の宮との間の子。
   当帝と大宮の子として育てられる。
一条院:東宮の父。当帝・堀川大殿と同腹の兄弟。
一条院皇后宮:女院。東宮と一品宮を産む。
東宮:次代の帝。後の後一条院。
一品宮:東宮の妹姫。飛鳥井腹の小姫を預かる。
    後に狭衣と結婚。
飛鳥井女君:故帥の宮の娘。
      狭衣との子を出産した後死去。
飛鳥井腹の姫君:狭衣と飛鳥井女君の間の子。
宮中将:故式部卿宮の息子。後の宰相中将。
宰相中将の妹姫:故式部卿宮の娘。藤壺女御。
飛鳥井女君の乳母:主計算頭の打算的な妻。
道成:狭衣の乳母子で側近。飛鳥井女君をさらう。
道季:狭衣の忠実な乳母子で側近。道成と兄弟。
中納言内侍典侍:女二の宮付き女房。
        狭衣との手紙を取り持つ。
大弐の乳母:狭衣の乳母。
弁の乳母 :宰相中将の妹姫の乳母。
山伏   :飛鳥井女君の兄。
常磐尼  :飛鳥井女君の伯母。



狭衣物語 現代語訳 目次


現代語訳はこちらです。

目 次
その1.  美しい従妹姫への長年の恋心
その2.  狭衣の君、光源氏の再来ともてはやされて
その3.  狭衣と飛鳥井姫君との出会い
その4.  雨夜の宴、天使降臨を誘う狭衣の笛の音
その5.  天に愛でられし狭衣を心配する人々
その6.  狭衣、源氏の宮へ恋心を打ち明ける
その7.  父の説教
その8.  狭衣と飛鳥井姫君との出逢い
その9.  窮地に立たされた飛鳥井女君
その10.狭衣との別れを決心した飛鳥井女君
その11.乳母のたくらみ
その12.飛鳥井女君の絶望と狭衣の後悔
その13.予期せぬ出来事
その14.女二の宮、婚儀前の懐妊発覚
その15.しでかした現実から逃げる男
その16.女二の宮、苦悩の果ての落飾
その17.逢いたい男、拒否する女
その18.狭衣、飛鳥井女君の消息を知る
その19.今上の譲位、そして出家
その20.源氏の宮の入内の行方は
その21.源氏の宮、堀川邸を巣立つ
その22.妻選びにうんざり
その23.狭衣、粉河寺での運命の出会い
その24.後ろ髪を引かれる思いで粉河寺を離れ
その25.秘密の我が子若宮を親心で見守る狭衣
その26.洞院上の願い
その27.今姫君の母代の衝撃の告白
その28.飛鳥井女君の真実を告げられて
その29.狭衣、涙の追善供養
その30.洞院方の今姫君のドタバタ事件
その31.狭衣、忘れ形見の子見たさに
その32.権大納言、狭衣と一品宮の噂を言いふらす
その33.堀川大殿、狭衣の結婚に向け正式に動く
その34.事態はどんどん狭衣の望まぬ方向へ
その35.入道の宮、狭衣のすがる思いを破り捨てる
その36.狭衣、一品宮と正式に結婚
その37.狭衣、温和な妻一品宮にモラハラ行為
その38.ようやく愛しい我が子に出逢えて
その39.姫の袴着であせる狭衣と一品宮の思いやり
その40.出生の秘密を背負った子供たちの袴着
その41.恋しい人の移り香する猫が羨ましくて…
その42.飛鳥井の女君の供養の夜に…
その43.神の妻となる源氏の宮、狭衣の慟哭