鈴なり星

平安古典文学の現代語訳&枕草子二次創作小説のサイト

第四回直撃レポートin後涼殿 その3

――真冬にひすまし女が増員されるのは、全女官のトイレの回数が増えるからなのですか。 「屋外トイレじゃなくて、ほーんとによかったですわ。室内のすみっこにある『おまる』で十分。寒風吹きすさぶ中でしゃがみこむなんて、痔になってしまいますものね」 ――…

第四回直撃レポートin後涼殿 その2

――女官の勤務状況はどうですか。何かご不満とかは。 「いいえ特には。一応建て前上は365日連続勤務となっていますが、交替勤務制なので非番の日があってきちんとお休みをいただけます。それは殿方も同じですわね。あと他に、女には『一週間の生理休暇』が非…

第四回直撃レポートin後涼殿 その1

行成だ。先ほどまで私は、寒風吹き込む左近の陣に詰めている武官たちと、火鉢にあたりながら世間話をしていたのだが…本音を言えば、もっともっとぐだぐだと皆にすがるように長話をしていたかった。これからしなければならない仕事のことを考えると…やはりキ…

狭衣物語36・狭衣、一品宮と正式に結婚

狭衣と一品宮の婚儀の当夜。大殿と堀川上が心を配り、狭衣の支度を終えた。衣装にたきしめた極上の香の薫りが華やかな衣装をさらに引き立てる。しかし出かける時刻がとっくに過ぎても、かんじんの狭衣は魂が抜けてしまったかのように、ぼんやりと部屋の端の…

源氏物語の女房たちの主従関係3・浮舟の女房侍従の君のつぶやき

高貴な御方々に『おしどり夫婦』がどれくらいおられるのか私には見当もつきませんが、あの匂宮さまと中の君さまは互いに愛し愛され、まことに仲の良い御夫婦だとの評判でございます。もっとも、背の君の愛情が過剰すぎるからでしょうか、有り余るなさけ心を…

小夜衣38・民部少輔、恋心をつのらせる

さて、対の御方(山里の姫)の周囲の人たちが心痛めて心配している間にも、御方を軟禁している民部少輔は恋心を悶々と募らせています。一言でもよいから恋心を訴えたいのですが、何と言っても相手は後宮女房。そう簡単に気持ちを打ち明けられるような女人で…

第11段 ムカ男、旅の途中で友人へ消息を伝える

ムカ男はどんどん東国へと下って行きました。その際、旅の途中で友人に送った手紙には、忘るなよほどは雲ゐになりぬとも空ゆく月のめぐり逢うまで (私のことをどうか忘れないでください。お互い遠く離れてしまっているけれど、再会するその日まで)とあった…

第10段 ムカ男、田舎娘の母親から代作歌をもらう

ムカ男が京の都を離れ、武蔵の国をあてもなくさまよっていたところ、ちょっとした縁で地元の娘と知り合いました。娘の父は「相手は都の貴族さまだ、遊び半分ですぐに飽きて捨てられるぞ」と心配しましたが、娘の母は「こんな田舎なのに、願ってもない良縁」…

狭衣物語35・入道の宮、狭衣のすがる思いを破り捨てる

嵯峨院にさっそく参った中納言典侍は、朝の勤行に専念している入道の宮のいる御堂に向かった。返事があるとは思えないが、とにかくお見せすることだけはしなければ。ようやく昼ごろ、入道の宮が文机で硯をお取りになったついでに、狭衣からの手紙をそっと置…

狭衣物語34・事態はどんどん狭衣の望まぬ方向へ

それからしばらくたった六月のある暑い昼下がり、狭衣は嵯峨院の御子である若宮(真実は狭衣と女二の宮の子)と一緒に、若宮の住む一條の宮で遊んでいたとき、急に荒れ模様になったことがあった。雨に打たれる柏の木を若宮と二人でながめていると、入道の宮…

狭衣物語33・堀川大殿、狭衣の結婚に向け正式に動く

狭衣の父である堀川大殿にももちろんこの噂は伝わった。しかし、「そうであったか。狭衣が長年思いを懸けていたのは一品宮さまであったのか。なるほどなるほど、それで合点がゆく。女二の宮さまや三の宮さまをすすめても、縁談を嫌がっていた理由が」とカン…

山路の露4・姉弟の再会と浮舟の願い

簀子の端に座る浮舟と、下の庭に控える小君。実の姉と弟はやっと対面できました。小君は、主人の薫の手紙を渡すより何より、まず姉の姿を確かめました。久しぶりに見る姉は昔と変わらず小柄でとてもきれいで、ただ、豊かだった髪の長さだけが以前とまったく…

小夜衣37・悲しみの心を分かち合いに山里の家へ

「山里の家に姫ががおられた頃が懐かしいよ…あの人が待っている、ただそれだけで、がむしゃらに馬を走らせたものだった」馬に揺られながら在りし日のことをぼんやり思う東雲の宮。一行が山里に到着すると、どうやら家の者は御堂で夕べの勤行の最中のようです…

第9段 杜若&旅の僧&都鳥にムカ男の消息を聞く

杜若の精の話ええ、他のお供の公達が目に入らぬくらいの、それは凛々しい貴公子だったわ。女心をわしづかみにする風情ってああいう容貌のことを言うのかしら。ここ美しい景色でしょ。見渡す限りの湿地が私たちの棲む場所。この静けさの中、風に身を任せて揺…

第8段 浅間嶽にムカ男の消息を聞く

うーん?そんな美丈夫一行が私の足元を通り過ぎたかどうか、ちと記憶に残っとらんな。私の裾野を通る者はたいがい目にしているが、任国に向かう国守一行か地元民の猟師ばかりだ。目の覚めるような美貌の貴公子とその一行にこの私が気づいていないということ…

第7段 伊勢の浪にムカ男の消息を聞く

本日このような辺鄙な場所をお訪ね下さいまして、まことにありがとうございます。もしやあなたさま、都で何かご災難に…は?そうですか、それは失礼致しました。いえ、ときおり見かける人間といえば、赤銅色に日に焼けた無骨な漁師やむくつけき土地長者、ごく…

無名草子10・著名な女性たちを論じる その3

少納言そうよ、何度もグチグチ言うようで悪いけど、この気持ちだけは何回言っても言い足りないのよ。その昔、大斎院様(村上天皇皇女選子内親王)が上東門院様(彰子)に物語を依頼した時、紫式部を召して、新しく『源氏物語』を作らせたっていう話、腹が立…

無名草子9・著名な女性たちを論じる その2

少納言母君の和泉式部、これほどすぐれた歌人はいないわね。彼女の歌は、現世だけの巡り合わせとは思えないくらい、とびっきりの才能とセンスにあふれているわ。物思へば 沢の蛍も わが身より あくがれいずる 魂かとぞ見る貴船神社の百夜参りで、この歌に貴…

第6段 ムカ男、駆け落ちする 

ムカ男は、とても叶えられそうになかった高嶺の花の女に通い続け、女と情を交わすようになりましたが、ある夜とうとう女を家から盗み出してしまいました。暗い夜道を逃げ続け、芥川という川のほとりに来た時、女は草の上にきらめく露を指さして、「あれは、…

無名草子8・著名な女性たちを論じる その1

小侍従それにしても、これは、という語り甲斐のある方ともなるとなかなか難しいわね。でも、世間一般にひとかどの方と言われている女性の真似でもして、自分を奥ゆかしく見せたいものですわ。 少納言モノマネをするなんてくだらない事よ。小侍従。 中務女御…

無名草子7・勅撰集、私撰集の意見を交わす

中務そうね。今までああだこうだと言ってきたことは皆作り事と言えば作り事ですもんね。物語なんだもの。歌物語なんかは、和歌中心の当代有名人の恋愛話で、実話だものねえ。『伊勢物語』や『大和物語』は実際の出来事と思えば感慨深いわ。 少納言『伊勢』は…

陽炎

地熱にじわじわ暖められた空気で孟宗竹が揺らめいて見える。ようやく立秋を越えたというのに、まだまだ夏真っ盛りの大暑のような厳しい暑さが続いていた。西に傾き始めた陽は熱く赤く焦れ、熱でよどんだ空気はピクリとも動かない。「暑い…」陽をまともに受け…

狭衣物語32・権大納言、狭衣と一品宮の噂を言いふらす

それから数日後、その権大納言は一品宮の中納言の君のもとをたずねた。「あの夜、この屋敷から出て行く狭衣の君を見かけましたよ。そういうわけだったんですねえ。たしかに一品宮と狭衣の君が親密なご関係なら、私は邪魔以外の何者でもないですから。しかし…

狭衣物語31・狭衣、忘れ形見の子見たさに

今上は、亡くなられた御父君の一条院を忘れられないでいた。発病後、あまりにも早く崩御され、子としてお見舞いも満足に出来なかったことをいつまでも後悔していた。そのせいもあって、残された母后(女院)と妹の姫宮をことのほか大切にしていた。この妹宮…

狭衣物語30・洞院方の今姫君のドタバタ事件

さて、洞院上が入内を画策している今姫君である。二月に入内の予定ではあるが、世間の人から、「なんてお幸せなのでしょう。大きな声じゃ言えないけど、もとはといえば一介の女房の産んだ物の数にも入らない方なのに、洞院のお方に引き取られて後宮入りとは…

狭衣物語29・狭衣、涙の追善供養

二十日過ぎの細い月影が霞みがかって見える。四方の山々に暁を告げる寺の鐘の声が寂しく響き渡る。ひなびた山里のこんな風景を、飛鳥井女君も毎日見て暮らしたのだろうか…そんなふうに狭衣が女君のことを思いやっていると、隣の部屋で若い女房たちの声が聞こ…

狭衣物語28・飛鳥井女君の真実を告げられて

飛鳥井女君が仮に生きていたとしても、無理に探し出してあれこれ詮索するのはいかにも未練がましい行為だろう…そうは思えども、二人の間にできた子がわびしい身の上で世間を漂うのは、いかにも哀れで仕方がない。狭衣は従者の道季を呼び、今姫君のところで聞…

第5段 ムカ男、許されぬ逢瀬に夢中になる

ムカ男は、東五条のお屋敷に住んでいる女のもとに、人目を避けて通っていました。その女は、ムカ男にとって政敵とも言える一族の総領姫で、ムカ男も逢瀬ひとつに命がけです。女の乳母の手助けがなかったら、とても逢瀬を続けられなかったでしょう。ムカ男は…

第4段 ムカ男、女に突然去られる

ムカ男は、東の五条の皇太后宮のお屋敷に住むお姫さまのもとに通っていました。西の対の屋に住んでいるそのお姫さまのことを「しょせんは叶わぬ恋だから」程度に思っていたのですが、忍び逢いが重なるにつれ、ムカ男も、そして女の方も、次第に愛情が深くな…

第3段 ムカ男、高子姫に手を出す

ムカ男が、恋しい女のもとに、ひじきを添えて歌を贈りました。 思ひあらば葎(むぐら)の宿に寝もしなんひじきものには袖をしつつも(もしもあなたも私のことを思ってくれるなら、たとえそれがあばら家でもいい、互いの袖を夜具の代わりに共に過ごしてくれな…