鈴なり星

平安古典文学の現代語訳&枕草子二次創作小説のサイト

小夜衣

小夜衣42・按察使大納言の来訪に戸惑う民部少輔

大納言はさっそく動き始めました。先触れせずに民部少輔の家を訪ねたのです。「おかしい。いつもの方違えでは必ず事前に連絡が入るのに、ご訪問が突然すぎる」家主の少輔はどれほどあわてたことか。対する大納言は、顔色を失ってもてなしをする民部少輔をじ…

小夜衣41・姫君救出計画

民部少輔の家のうす暗い監禁部屋で皆が喜び合っている一方、姫君たちの居場所を知らされた宰相の君は考え込んでいました。開いた口がふさがらないような今北の方のたくらみ。はかなげで弱々しそうな姫君なのに、つらい仕打ちに長期間よくぞ耐えぬかれたこと…

小夜衣40・民部少輔の妻の告発

さて、夫に内緒で屋敷を抜け出した民部少輔の妻は、伯母のいる家に駆け込み、「伯母さまがお仕えしている宰相の君に今すぐお目にかかりたい、連れて行って欲しい」と訴えました。尋常ならぬ姪の様子に驚いた伯母の中務は、大急ぎで車に乗りこみ、宰相の君の…

小夜衣39・一すじの希望の光が

一方で妻は、夫の惚けた顔を横目に、対の御方たちのいる部屋にせっせと参上しています。夫が対の御方に出した手紙の内容も、妻にはとっくに筒抜けです。監禁部屋に出向いた妻は、生きる気力をすっかりなくしている対の御方に同情の言葉も見つかりません。側…

小夜衣38・民部少輔、恋心をつのらせる

さて、対の御方(山里の姫)の周囲の人たちが心痛めて心配している間にも、御方を軟禁している民部少輔は恋心を悶々と募らせています。一言でもよいから恋心を訴えたいのですが、何と言っても相手は後宮女房。そう簡単に気持ちを打ち明けられるような女人で…

小夜衣37・悲しみの心を分かち合いに山里の家へ

「山里の家に姫ががおられた頃が懐かしいよ…あの人が待っている、ただそれだけで、がむしゃらに馬を走らせたものだった」馬に揺られながら在りし日のことをぼんやり思う東雲の宮。一行が山里に到着すると、どうやら家の者は御堂で夕べの勤行の最中のようです…

小夜衣36・監禁された家の主民部少輔の画策

さて、対の御方たちが捕らわれている民部少輔の家では、御方の可憐さにすっかりのぼせ上った主人の民部少輔が、無い知恵をしぼり出そうとしていました。「よくもあんなみすぼらしい妻と長年つれ添ったものだ。あの美しい姫さまを拝み奉り、毎日お世話できた…

小夜衣35・東雲の宮、妻への遅すぎた真心

どこがどうとはっきりしないまま、二の姫の病状はどんどん重くなっていきます。意識不明になることもたびたびあり、ご両親の関白大殿と母君は心配で心配でなりません。「非常に強い物の怪の仕業かも知れぬ」と高僧を大勢召しだして祈祷を行わせても、出てく…

小夜衣34・冷え切った東雲の宮夫妻、すれ違いの果てに

さらわれた対の御方が東雲の宮を想って重いため息をついている頃、東雲の宮はどのように過ごしていたでしょうか。もちろん、片時も対の御方を考えない時はありません。どうやら按察使大納言の妻である今北の方が、今回の失踪に関わっているらしい…とはいえ、…

小夜衣33・民部少輔の下心

座敷牢まがいの場所に軟禁され、孤立無援の対の御方たちですが、その薄幸の美少女ぶりにすっかり同情してしまった民部少輔の妻は、不自由な生活を強いられている御方たちの気を少しでも慰めようと、心のこもったお世話をするのでした。ところが、御方たちを…

小夜衣32・今上と東雲の宮、立場は違えど思いは一緒

「やあ宮。すっかりご無沙汰だね。結婚した妻の家の居心地があまりに良いものだから、てっきり忘れられているかと思ってたよ」人も少なな穏やかな昼下がり、脇息にもたれていた今上は、御前に参上した東雲の宮にそう声をかけました。「は。鬱々とした気持ち…

小夜衣31・小夜衣の姫の不在に悩める今上

さて、最初のうちは、「対の御方は祖母君ご危篤のためご実家に下がられました」との言葉を信じていた今上ですが、それからずいぶん月日も経ってしまい、さすがに不審に思い始めました。「祖母君がお亡くなりになったにしろ回復なされたにしろ、もうそろそろ…

小夜衣30・小夜衣の姫、幽閉される

さて、親しい方々が茫然自失で心配する中、かんじんの対の御方は捕らわれたままです。どこともわからぬ殺風景な部屋に閉じ込められてから、もう何日も経ってしまいました。尼君がどんなに心配しているか…これから私たちはどんなひどい目に遭わされるの…と考…

小夜衣29・悲しみの衝撃、走る

泣き疲れ、少し落ち着いたころ、乳母がふっと思いつきました。「もしかすると、東雲の宮さまのしわざでは?宮さまと姫さまは、内裏では一度も対面する機会がなかったはずでございます。逢いたい逢いたいと思い詰められた宮さまが、姫をさらってどこかへ隠し…

小夜衣28・小夜衣の姫の失踪

さて、こちらは後宮の対の御方の局です。少納言の乳母(対の御方の乳母)は、自分の娘(小侍従)を御方に付き添わせ、自分は後宮に残ったのですが、尼君が危篤と聞いて一晩中まんじりともせず、夜が明けるのが早いか、胸のつぶれる思いで大急ぎで山里の家へ…

小夜衣27・今北の方の罠

今北の方とその乳母子の民部少輔夫妻が対面したその夜、内裏近くに目立たないようにしつらえた車が停まりました。中から女が出てきて、対の御方の局へと忍んで行きました。「大変なことになりました。山里の尼君さまの病状が悪化し、胸をおさえてたいそうお…

小夜衣26・今上、小夜衣に迫りまくる

対の御方に逢えない寂しさに耐えかねて、わざわざ御方の局に出向いた今上。その今上の目に飛び込んできたのは、つややかな紅梅襲の小袿に梅の唐衣と、華やかさが匂いたつような着物に身を包んだ対の御方でした。こんなにも美しく着こなしているのに、全く自…

小夜衣25・ゴシップに興味津々な女房たち

その後も、今上はせっせと梅壺に渡っては、つれづれのなぐさめに楽器を合わせたりなさいます。対の御方に筝の琴を弾かせ、今上自身は笛を吹いたりするのですが、お二人の合奏を快く思わない女御は、今上に琵琶を勧められても手もつけようとしません。仕方が…

小夜衣24・今上の隠しきれない恋心

五節の舞のあとは管弦の宴です。昼と間違えるような明かりの中、名だたる殿上人や女房たちが楽器をかき鳴らし、華やかに夜が更けてゆきます。そんな中、ただ一人東雲の宮だけがしょんぼりと座っています。「今頃御簾の内のどこかにいらっしゃるのだろうか。…

小夜衣23・小夜衣、宮中で東雲の宮を見かけ…

さて五節の当夜です。宮廷内の行事の中で、もっともきらびやかな催しものの一つである五節の舞の奉納には、公卿・殿上人が残らず参集し、舞が披露される豊明殿はとてもにぎやかです。ほとんどの殿上人が集まっているわけですから、東雲の宮はもちろん出席し…

小夜衣22・今上、可憐な小夜衣にご執心

さてこちらは、対の御方(小夜衣の姫)にすっかり心惹かれてしまった今上です。ずいぶん長い間ひと目を気にして、ふるまいに気を使っていた今上でしたが、最近はその気持ちも持て余し気味、抑えきれない恋心にイライラする毎日です。あの人にもう一歩踏み込…

小夜衣21・東雲の宮、山里の尼君に現状を愚痴る

それ以来東雲の宮は、前にも増して小夜衣の姫のことばかりを考えています。自分が今いる宮中で、同じ空気を吸って暮らしている、と思うと、それだけで心は千々に乱れます。この複雑な想いを、山里にいる尼君に訴えてみようか…ある日東雲の宮はそう決心して、…

小夜衣20・東雲の宮、噂の対の御方の素性を知る

こうして、可憐な対の御方見たさに、毎日毎日せっせと梅壺に通いつめる今上。とうとうある日ガマンできなくなって、梅壺女御に訊ねました。「ところで、奥に控えている女房…そう、あの竜胆襲(りんどうがさね)の女房ですよ。いつも目立たぬようにふるまって…

小夜衣19・暮らしの激変に戸惑う小夜衣の姫

こうして忙しく日々は過ぎ、とうとう按察使大納言の姫の入内当日になりました。たいへん豪華なお仕度です。数日前に今北の方が小夜衣の姫のもとへやってきて、「このお屋敷ですることもなく退屈に過ごされるよりは、思い切って宮中に出仕なさっては?気分も…

小夜衣18・東雲の宮と小夜衣の姫、それぞれの後悔

かわってこちらは東雲の宮。宮は、小夜衣の姫をこっそりかくまう場所を準備したので、いつものとおりお手紙を山里の家に送ったところ、お使いの者が「大納言邸へ引っ越されたそうです」と手ぶらで戻ってきましたのでびっくり。「なんだって!?そんな話は聞…

小夜衣17・山里の我が家とのお別れ

さて、按察使大納言のお屋敷では、来月入内予定の姫の準備に追われていましたが、父君の大納言は、山里の小夜衣の姫をちゃんとお迎えすることも忘れていませんでした。姫たちが、屋敷のどたばたに遠慮してしまうのではないかと心配していましたが、わびしい…

小夜衣16・悲しみを打ち明けられない姫、気づかぬ宮

逢えなくなって、どのくらい経つのかな…と、東雲の宮は今夜も独りもの思いにふけっています。「今宵こそ」「今宵こそは」と毎日思っているのですが、両親に知られてやっかいなことになるのも鬱陶しい、だからと言って、心から愛する女を打ち捨てておくのは男…

小夜衣15・父按察使大納言の決意

さて、今度は小夜衣の姫の父君である大納言の話です。大納言殿は、今北の方との間にできた娘の入内の準備に忙殺されていましたので、それ以外のことに関われる時間がなく、長い間、前妻との間にできた娘が住む、この山里を訪れる余裕さえなかったのでした。…

小夜衣14・冷淡な背の君の仕打ちに

毎日が憂鬱でならない東雲の宮は、どうしても新妻である二の姫につれない態度に出てしまうのでした。親の顔だけを立てた、その程度の妻…関白家の二の姫をそんな扱いにしてしまうのは失礼極まりないことなのに、今の宮にとって二の姫はとてもうっとうしい相手…

小夜衣13・一夜の逢瀬の後のいや増す無常感

返事を受け取った翌日、とうとう我慢しきれなくなった東雲の宮は、有明の月がようやく山の端にのぼるような真夜中、山里の小夜衣の姫のもとへ出かけました。できるだけ人目につかないよう牛車ではなく馬で、供回りもごくわずか、服装もわざと粗末にして、京…