鈴なり星

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第11段 ムカ男、旅の途中で友人へ消息を伝える

 



ムカ男はどんどん東国へと下って行きました。
その際、旅の途中で友人に送った手紙には、

忘るなよほどは雲ゐになりぬとも空ゆく月のめぐり逢うまで

(私のことをどうか忘れないでください。お互い遠く離れてしまっているけれど、再会するその日まで)

とあったそうな。


第11段はとても短く、詞書(ことばがき)がストーリーになったような内容です。
この段の和歌は在原業平の作ではありません。橘忠幹(912ー955)作で、『拾遺集』に掲載されている歌をまるまる本歌どりしたものです。丸パクリでも、橘忠幹の方は密かに交際していた女に遠方に旅立つことになったと打ち明ける歌ですが、こちらの方は友人に向けてです。
「友人」と前置きしながら本当はねニヤニヤ…みたいな会話が後世の宮廷サロンで展開されたのではないでしょうか。
橘忠幹は在原業平よりおよそ80年位後の時代の人。伊勢物語は業平以外の和歌も取り入れながら、数代に渡って作られていったことがわかります。
業平が物語の出来事すべてを経験したわけではありません。他人の歌や架空の物語、地方の民話も手を加えて入っています。しかしそれらを歌物語に仕立て上げたとき、主人公の容貌は恋の伝道師業平がいいよね、と読み手が女性なら皆そう思うのではないでしょうか。