鈴なり星

平安古典文学の現代語訳&枕草子二次創作小説のサイト

無名草子

無名草子10・著名な女性たちを論じる その3

少納言そうよ、何度もグチグチ言うようで悪いけど、この気持ちだけは何回言っても言い足りないのよ。その昔、大斎院様(村上天皇皇女選子内親王)が上東門院様(彰子)に物語を依頼した時、紫式部を召して、新しく『源氏物語』を作らせたっていう話、腹が立…

無名草子9・著名な女性たちを論じる その2

少納言母君の和泉式部、これほどすぐれた歌人はいないわね。彼女の歌は、現世だけの巡り合わせとは思えないくらい、とびっきりの才能とセンスにあふれているわ。物思へば 沢の蛍も わが身より あくがれいずる 魂かとぞ見る貴船神社の百夜参りで、この歌に貴…

無名草子8・著名な女性たちを論じる その1

小侍従それにしても、これは、という語り甲斐のある方ともなるとなかなか難しいわね。でも、世間一般にひとかどの方と言われている女性の真似でもして、自分を奥ゆかしく見せたいものですわ。 少納言モノマネをするなんてくだらない事よ。小侍従。 中務女御…

無名草子7・勅撰集、私撰集の意見を交わす

中務そうね。今までああだこうだと言ってきたことは皆作り事と言えば作り事ですもんね。物語なんだもの。歌物語なんかは、和歌中心の当代有名人の恋愛話で、実話だものねえ。『伊勢物語』や『大和物語』は実際の出来事と思えば感慨深いわ。 少納言『伊勢』は…

無名草子6・さまざまな王朝物語の批評2

右近では『心高き東宮の宣旨』、先ほどもチラッと出た『朝倉』『岩うつ浪』の批評をお聞きしたいわ。 老尼『心高き東宮の宣旨』…理想の高い東宮の宣旨の、夢いったん叶ったのち破れるという話ですね。今ではすっかり古めかしい筋立ての類になってしまいまし…

無名草子5・さまざまな王朝物語の批評1

老尼『夜半の寝覚』…とりたてて感慨深いという点もなく、さしてすばらしいと言うべきところもありませんが、物語の最初からひたすらに女主人公一人の事を書き、他を取り上げようとせず情緒深く心を込めて作り上げようとする作家の心意気が感じられ、しみじみ…

無名草子4・源氏物語の人物論から狭衣物語へ

中務優れた心ばえの紫の上はまた、痛ましい方でもあられたと思うわ。ご境遇を考えるとねぇ。実の父宮に顧みられず継母にも嫉妬され、源氏の君に心から愛されていたとはいえ、女性関係に悩み、正妻の地位も与えられず。心労で亡くなられるなんてねぇ。 少納言…

無名草子3・源氏物語に登場する女君たちの品定め

中務まずは『源氏物語』よ。今さらだけどほめる言葉しかでてこないわね。よくもまあ、こんな物語を作ってくれたものだと思うわ。神か仏が憑依したとしか思えないくらいね。『源氏』以前はあっても、『源氏』以後はなくなっちゃたと言っても言い過ぎじゃない…

無名草子2・老尼と女房たちのおしゃべりの始まり

老尼私の見聞きしたことなど、世間並みの事には及びませんけれども、16、7歳のころ、皇嘉門院(崇徳天皇の中宮聖子)さまの御母君であられる北の政所さまにお仕えしておりました。こう言うと、私の歳がどれほど見苦しいものであるかはおわかりいただけま…

無名草子1・老尼、不思議で風流なお屋敷に迷い込む

もうアタシも83歳。考えてみれば、この歳までたいしたこと、なーんにも無かったわねえ。人間と生まれたからには一つくらい、ここ一番のハイライトってのがあってもよさそうなもんだけど、そんな思い出になるようなものもなく、トシとっちゃったから出家しち…