鈴なり星

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無名草子8・著名な女性たちを論じる その1

 

 



小侍従
それにしても、これは、という語り甲斐のある方ともなるとなかなか難しいわね。でも、世間一般にひとかどの方と言われている女性の真似でもして、自分を奥ゆかしく見せたいものですわ。

 

少納言
モノマネをするなんてくだらない事よ。小侍従。

 

中務
女御お后の位は、古今東西女性の望み得る最高の地位ではあるけれど、その地位にあった人の中にさえ、理想像はめったにいません。ましてや、それ以下の身分の者ともなると。
いにしえの数多の歌人の中では、やはり小野小町こそが容貌・態度・心遣いなど、全てにおいてすぐれた方と思うわ。詠んだ歌だって、女とはかくあるべきとつくづく思わせる歌ばかりで、わけもなく感激してしまうもの。

 

少納言
でも晩年すごーく悲惨だったって話が多いじゃない。そんなみじめな晩年過ごしたくないわ。

 

中務
それは、若き日の美女がいきながらえて老婆になる変容が、仏教の教理を説くのに都合がよかったからよ。まあそれにしても、川の流れのような憂き世が思い知らされて切ないわね。成仏できない小町の遺骸の話とか。
小町以外の誰が、死後もこれほどまで話題にのぼりましょうか。情緒の色も匂いも深く味わおうとするならば、死後もこのようにありたいものだわ。

 

小侍従
一つの物事に執着しすぎた人が、平穏無事に人生をまっとうする例はめったにないことのようね。
清少納言が一条帝の中宮定子にお仕えになってその才能を存分に発揮したことは、『枕草子』でもよくわかることよね。詩歌の方は、清原元輔の子にしてはもうひとつだったようだけど。清少納言自身もそれはよくわかっていて、定子中宮にお願いして、和歌を詠む席にはあまり出席しなかったみたいだし。それなら残ってるお歌があまりに少ないのもうなずけるわ。

 

中務
その『枕草子』、あれはステキねえ。いにしえの優美な宮廷生活を残すところなく書きあらわしていて、一条帝の定子中宮が後宮で一番輝いていた頃のことを、恐ろしいほどまざまざと記録のように残しているわ。父君関白道隆様がお亡くなりになったこと、兄の内大臣伊周様が失脚なさったことなどの没落ぶりなどをおくびにも出さず、定子中宮に対してあれほどの行き届いた心配りをした人が、晩年はしっかりした縁者などもいない様子で、田舎に引きこもってしまうなんて。
晩年の清少納言を話を聞くとなんだかもう…涙がでてくるわ。長い人生を美しいままに完結させることって本当に難しいのね。

 

右近
和泉式部の娘、小式部の内侍はどう?私はとてもすばらしい人だと思うけど。命短く盛りの時にお亡くなりになったことなどは、清少納言の晩年の逸話に比べればうらやましく感じる。中宮彰子に目をかけていただき、亡くなる際、中宮から御衣を賜るなんて、これこそ宮仕えの本意、これに勝るものはないわ。それにたいそう魅力的で多くの男性に言い寄られたけど、上手にあしらって、関白太政大臣の藤原教通殿にたいそう愛されて、子供を何人ももうけるなど、こんなに幸せな方は他にいらっしゃるかしら。

 

小侍従
そうねえ。歌人としての評判は、母君の和泉式部に押されがちだけど、でもやはり母君の血は受け継いでいると思うわ。たいそう気の利いた歌がたくさん残ってるものね。小式部の内侍は恋多き歌人。名歌を詠み、短くても充実した人生を燃焼しきった。そんな生き方もいいのかもしれないわね。