鈴なり星

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第3段 ムカ男、高子姫に手を出す

 

 

ムカ男が、恋しい女のもとに、ひじきを添えて歌を贈りました。


思ひあらば葎(むぐら)の宿に寝もしなんひじきものには袖をしつつも
(もしもあなたも私のことを思ってくれるなら、たとえそれがあばら家でもいい、互いの袖を夜具の代わりに共に過ごしてくれないか)

これは、藤原良房が後見していた高子姫が清和天皇へ入内する以前のお話です。


業平と高子姫。
二人の出会いは、入内前の普通(と言ってもセレブ)のお姫さまだった高子姫が、五節の舞姫を務めたところから始まります。

父親代わりの藤原良房が、当時の清和天皇に入内させようと、大嘗祭で五節の舞姫に献上したのです。このとき清和天皇は10歳、元服すらしていなかったので、数年後の元服時の添い伏しにするつもりだったんでしょう。
ところがこの時、物かげで高子姫の舞姿を見つめている五位の蔵人がひとり。
それが当時35歳の業平。18歳の美しき乙女の無垢なる舞いに一目ぼれです。
17も年上の男に言い寄られた乙女の気持ってどうよ?と思いますが、相手はただの35歳ではなく、両親は親王、天才歌人、美丈夫で色好み、当時から音に聞こえた恋愛の手練れの「あの」業平です。ハイスペック貴公子の寄こした歌に、男を知らない(五節の舞姫は処女限定)高子姫がわりと簡単に落ちたんだろうと想像できます。
麗しい舞姿に惹かれた業平が、海藻のひじきと夜具の引敷物(ひじきもの)を掛けて、歌を贈ったのが第3段です。
むちゃくちゃストレートな求愛の歌です。
一度入内してしまった後なら大問題ですが、具体的な入内の話がまだない姫に通じたからといって、表立って何か処罰されるというわけではなかったと思われます。
もちろん、当時の最高権力者の娘を無断で喰っちゃったら、発覚した後はそれなりの圧力は覚悟しないとね。