鈴なり星

平安古典文学の現代語訳&枕草子二次創作小説のサイト

第四回直撃レポートin後涼殿 その2

 

 

――女官の勤務状況はどうですか。何かご不満とかは。


「いいえ特には。一応建て前上は365日連続勤務となっていますが、交替勤務制なので非番の日があってきちんとお休みをいただけます。それは殿方も同じですわね。
あと他に、女には『一週間の生理休暇』が非公式ですけど認められていますし」


――ゲホンゲホンッ(のっけからシモネタか)すみません。そうでしたね。生理休暇。規定には何も書かれていませんが、公然と宿下がりできますし。


「女の体をいたわってのお休みではありませんけれどね。宮中の『穢れ』を避けるために追い払われてしまうのですわ。大きな声で生理、生理と連呼できませんので、わたくしたちは生理休暇のことを、スラングで『手なし休暇』と呼んでいます」


――手なし休暇??


「生理期間中は、実家に居ても食器や調度品などに触ることを禁じられているからですわ。表向きは、ですけどね。何にも触れずに生活するなんて無理ですもの。穢れの身ですので、一週間室内にこもって、生理終了後に入浴(蒸し風呂)、次の日からようやくお勤めに戻りますの。
ですから一週間明けたあとの私たちは、身も心もデリケートゾーンもさっぱりなのですわよ」


――(かえす言葉が見つからない)…


「あなたさまごひいきの清少納言だって、手なし休暇の最中に、実家でせっせせっせと草子つくりに励んでいるのですわオホホ。だって穢れの身で出来る仕事なんて、そうそうありませんものね。ヒマでヒマで仕方ないのですから。
頭のよく回る女人は手なし休暇が稼ぎ時。これですわよ」


――他にも女官には『沐暇(もっか)』もありますね。


「洗髪休みのことですか?大事なお休みですわ。髪は女の命ですから。長髪だけに汚れやすくて、お手入れが大変なのですよ。洗うのも乾かすのも一苦労。
洗髪するときは、丸一日分の特別休暇をいただけます」


――こうしてお聞きすると我々男性より休みは多いようですが。


「確かにお休みは多いかもしれませんが、拘束、という点では殿方より厳しいのではないかしら。
後宮って一番権威ある働き口ですし、皆のあこがれであり最も華やかな場所。とはいえお勤めはつらいですわよ。
老いを感じさせない若々しさも教養も必要な職場ですので、失敗したりしないよう常にピリピリしてますの。
労働時間は早朝から夜までが普通ですし。
じっとしてるのもこたえますのよ。柱と柱の間は、広い吹き抜けの空間みたいなものでございましょう?真冬など板敷きに座っていますと、こう、下から冷え込みが襲ってくるようでねえ。円座(わろうだ)なんて、寒さ対策には何の効果もありませんわ」


――下級女官たちは、どうしていますか。


「わたくしたちよりはよく動いていますので、少しは…いえ、そうでもありませんわねえ。燃料代を相当節約させられていますので、火鉢も満足に使わせてもらえませんし、灯明の芯もケチッているので、蔀(しとみ)を下ろせば室内はほぼ真っ暗、という生活ですね」


――そうなると、宮中も座敷牢ですね。


「冬は特にトイレがつらくて。寒くて寒くてこらえかねて、何度もトイレに立つんです」


――(…シモの話きた…)