鈴なり星

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第5段 ムカ男、許されぬ逢瀬に夢中になる

 

 

ムカ男は、東五条のお屋敷に住んでいる女のもとに、人目を避けて通っていました。
その女は、ムカ男にとって政敵とも言える一族の総領姫で、ムカ男も逢瀬ひとつに命がけです。女の乳母の手助けがなかったら、とても逢瀬を続けられなかったでしょう。
ムカ男は、子供たちの踏みあけた土塀の崩れた場所から邸内に入っていましたが、いつのまにか発覚してしまい、屋敷の主人の知るところとなってしまいました。
塀の崩れた部分には、夜ごとに見張りがつき、ムカ男はお姫さまに逢う事ができません。

人知れぬわが通い路の関守はよひよひごとにうちも寝ななん
(秘密の抜け道に見張りが立ってしまった。毎晩私の邪魔をする。何とか眠ってほしいのだが)

ムカ男の詠んだ歌に、女はたいそう嘆き、その悲しみに免じて、屋敷の主人もついにムカ男の通いを許してくれたのでした。
これは、ムカ男が入内前の二条后に通っていたのを、兄たちが邪魔しようとしたお話です。


東五条のお屋敷の主人は仁明帝皇后順子。高子姫は仁明帝皇后のもとに住んでいました。
そんな超上流階級のお屋敷なのに、土塀が一部崩れて修理も怠っているというのが不思議ですが、修理するには修理代が要るけど家来を番人にするには何の手間賃もかかりません。しょっちゅうやって来る台風や豪雨で屋敷のどこかしらが損害を蒙っているのが当時の常。
それに”許されぬ忍び逢い”の形容詞として、土塀の崩れからこっそり、という表現を使っただけかもしれません。正門から堂々と入れない、という意味で。

高子は相当な深窓の姫。監視の目もガッチリあったはずなのに、ムカ男は見つからずによく通い続けられたものだと感心します。
おそらく高子の乳母が二人の味方になって、見て見ぬふりをしたんじゃないかと推測しています。
実質の面倒をみているのは親ではなく乳母。乳母の了承と協力なくしては、短期間とは言え許されない恋路を通い続けるなんて絶対ムリ。父親代わりの良房は激怒するだろうけど、
「入内前なんだから相思相愛の恋愛を経験させたっていいでしょ」
と乳母が判断したんじゃないかなと思っています。