鈴なり星

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小夜衣41・姫君救出計画

 


民部少輔の家のうす暗い監禁部屋で皆が喜び合っている一方、姫君たちの居場所を知らされた宰相の君は考え込んでいました。
開いた口がふさがらないような今北の方のたくらみ。はかなげで弱々しそうな姫君なのに、つらい仕打ちに長期間よくぞ耐えぬかれたことよ、と手をこすり合わせて神仏に感謝したいほどでした。
「事の次第をまずどなたさまにお知らせすべきかしら。
姫君に恋焦がれている東雲の宮さまに知らせた方が…だめね。下手にご相談したら、頭に血がのぼって何をするかわからないわ。無理に屋敷に押し入って姫君を取り返そうとするかもしれない。女をめぐって格下の身分の男の家に侵入したなんて世間に知られたら、とんでもない笑い者になるわ。
まずは山里の尼君にお知らせするのが一番ね。親御さまより深い愛情をお持ちの尼君ですもの、どれほど安心なされることか。
それと父君の大納言さまにも大急ぎで知らせなくちゃ。確実に取り戻せるのは、大納言さましかいないのだもの」
宰相の君は一刻を争うように山里へ出向きました。
民部少輔の妻からあずかった姫君の手紙を尼君に見せ、姫の身の上に起きた事情をわかりやすく説明しました。
宰相の君の話を聞きながら、尼君はどれほど喜んだことか、言葉にならないくらい感極まり涙が止まりません。同じく話を聞いている女房たちも大喜びです。
「姫がこの世に生きているのなら、一刻も早く会いとうございます。つらい目に遭っているのならば、早く助けてやってくださいまし。お願いです。父親の大納言殿ならきっと正当な方法で連れ戻してくれましょう」
さっそく按察使大納言のもとに使者が走りました。使者は、
「たいへんなお話が。一刻の猶予もありません。今すぐ私と一緒に来てください」
と大納言を急かして山里の家へ連れてきました。使者のただならぬ様子に大納言は「もしや姫のことで何か手がかりが」と大あわて。山里の家に大納言が到着するなり、今か今かと待ち構えていた宰相の君や尼君が、姫の所在が判ったと興奮気味に説明しました。
ほんのわずかな手がかりだけでもありがたいと思っていたのに、居場所だけでなく姫の手紙まであるとは。大納言は仏の加護に感謝せずにはいられません。したためられた走り書きを見ますと、かなり切迫した状況が察せられます。
「何ということだ。この私が我が妻にまんまとだまされていたというのか」
大納言は唖然茫然です。
「ぜひお力をお貸しくださいませ。もはや一刻の猶予もありません。このままでは姫さまは近いうちに衰弱死してしまいます」
「ここ数ヶ月の間というものどれだけ心配したことか。なのに灯台もと暗し、妻の乳母子の家に閉じ込められていたとは。
いやはや、尼君には何ともお詫びしようもございません。あれほど大事に育ててくださったというのに、我が手元に置いた途端さらわれてしまうなど。父親として情けない限りでございます。
とにかく急いで姫を救出しましょう。その民部少輔の妻の指示どおりに『方違え』と称して出かけることにします」