鈴なり星

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新種生物電気ネズミとの遭遇 その2

「…頭中将どの。何か視線を感じませぬか」「え?」急に話を振られてトリップから現実に引き戻される斉信。「何かって…い、いやだなあ綱どの!カンベンしてください、私で遊ぶのはナシですよ」「シッ騒ぎ立ててはいけません。何かがこちらの様子を伺っている…

新種生物電気ネズミとの遭遇 その1

鞍馬の森は、いつも不気味な霊気に満ちている。どこの深山もそうであるが、特にこの鞍馬山は、たとえ陽の照りつける夏の昼下がりであっても、一歩足を踏み入れれば、うっそうたる樹木に空は見えなくなるほどの薄暗さだ。ましてや今は晩秋。ひんやりと神秘的…

斉信、公任の悪夢を見る

斉信は、いま自分がどこにいるのか皆目分からなかった。あたりはうす暗く、自分の足元には地面の感触が無い。寒くもなく暑くもなく、おまけに着物すら身に付けていないのではないか、と感じていた。肌にあたるはずの布の感触すらない。「私はどこにいるんだ……

遠雷

北西の、はるか彼方の方向に稲光のよく見える夏の宵。かなとこ状の雄大な雷雲の中に稲妻が走り、しばらくして低いかすかな雷鳴が聞こえた。稲光が輝くたび雷雲が夕空に何度も浮かび上がる。発光から雷鳴までの間隔の長さが、これが遠雷であることを示してい…

手紙

『 拝啓 藤原斉信殿 斉信殿。お元気ですか。立秋もとうに過ぎましたが、都は相変わらず真夏の蒸し暑い空気がたちこめて、皆様方におかれましてはさぞ暑さにあえいでいることと存じます。こちらはやはり北国、立秋の少し前あたりから夜にはもう涼しげな風が吹…

公任、ムカデ退治に巻き込まれる その2

――それから四半時もしないうちに。ダンッ!ダンダンッ!ダンダンダンッ!ダダン!!バシッ!バシバシッ!バンバンバンッ!!床を踏み鳴らす荒々しい足音と、何かを叩くような音が聞こえてきた。その暴力的な音に混じって、女の泣き叫ぶ声と男の怒声も聞こえ…

公任、ムカデ退治に巻き込まれる その1

公任は前方を行く一行を眺めている。彼の視線の先には、枯れ草を山のように抱えている頭の中将とその部下数人が歩いていた。(どうしてもっとサクサク歩かないんだ。追い越さなきゃならないじゃないか。うーんシカトして追い越そうか。あんな荷物を抱えてい…

近江の君(源氏物語)、トイレ係になる

こんにちは!あたし近江っていいまーす。皆には近江の君って呼ばれています。とうとう女御さまにお仕えするお許しが出たわ!弘徽殿女御さまが宿下がりなさってる期間限定の行儀見習いだけど。でもお役に立てる働きぶりなら、憧れの尚侍も夢じゃないかも!私…

三途の守、清涼殿の落雷被害者を乗せる

俺さまの名前は黄泉の国三途の守。さまよえる亡者をあの世の入り口に引き渡すのが仕事だ。三途の川辺で舟の手入れをしていると、彼方からトボトボと四人の男がやってきた。俺は本日の乗船予定欄に目をやる。「藤原清貫(きよつら)さんと、平希世(たいらの…

仮面

面をつけて顔を隠した瞬間、新しい人格が生まれる…ということは本当にあるのかもしれない。先ほどまで陽気な笑顔で軽口を叩いていた斉信は、眼光鋭く鼻の高い異国風の面で顔を覆った瞬間から、おのが日常性を消し、別の人格を浮き上がらせた。超自然的な容貌…

空の贈り物 その3

「…やはりタチの悪いタヌキかイタチが化けたのでは」安堵しているのか不安なのかよくわからない声で則光が言います。「ははは。それならそれでもかまわないさ。とにかく花びらのような雪を約束してくれたのだから。さて、ずいぶん道草を喰ってしまった。山の…

空の贈り物 その2

「おかしいですね、道を間違えたのでしょうか。僧庵に行く途中にこんな泉があるなんて、聞いたことがありません」泉の水面には氷が張っていて、一箇所だけ氷にヒビが入っています。どうやら斉信のムチは、泉の底に沈んでしまったようでした。「おや?見たま…

空の贈り物 その1

今は昔、一条天皇の御世にイケメン蔵人頭がおりました。帝の信任も篤い彼の名は藤原斉信。今日は帝の御使いで、比叡山のえらいお坊さまの所までお出かけです。帝の持病である神経性胃炎がひどくなったため、ここのえらいお坊さまに祈祷を頼みに来たのです。…

箱の中身 その2

次の日の早朝。「こんなところに汚らしい沓が置き捨ててあるわ!一体誰なの、こんなひどいことなさるのは!」ひとりの女官がけたたましく騒ぎ立てている。小兵衛の君だ。食事の準備が整った御膳を置いてある棚に、箱が一つあるのを一番に見つけた彼女は、中…

箱の中身 その1

方弘は汚い沓を入れた箱を抱えていた。「おい方弘、もっと大事に扱えよ…大事な贈り物なんだから。まったくおまえはがさつだな」「わかってるって、心配するなっつーの」信経と方弘は後涼殿へ向かって、南廂を歩いている。事の発端は殿上の間での方弘のためい…

医師・和気重秀の水飯ダイエット指南

大宮人の日々の健康を長い間見守り続けていますが、記憶に残るほどの大食漢と言えば、そう、忘れようにも忘れられない大飯喰らいの三条中納言朝成卿がおられました。つい先日、五十八才で亡くなられましたが、まさか怨死だとは。あの方は絶対に心臓の病か消…

第四回直撃レポートin後涼殿 その3

――真冬にひすまし女が増員されるのは、全女官のトイレの回数が増えるからなのですか。 「屋外トイレじゃなくて、ほーんとによかったですわ。室内のすみっこにある『おまる』で十分。寒風吹きすさぶ中でしゃがみこむなんて、痔になってしまいますものね」 ――…

第四回直撃レポートin後涼殿 その2

――女官の勤務状況はどうですか。何かご不満とかは。 「いいえ特には。一応建て前上は365日連続勤務となっていますが、交替勤務制なので非番の日があってきちんとお休みをいただけます。それは殿方も同じですわね。あと他に、女には『一週間の生理休暇』が非…

第四回直撃レポートin後涼殿 その1

行成だ。先ほどまで私は、寒風吹き込む左近の陣に詰めている武官たちと、火鉢にあたりながら世間話をしていたのだが…本音を言えば、もっともっとぐだぐだと皆にすがるように長話をしていたかった。これからしなければならない仕事のことを考えると…やはりキ…

源氏物語の女房たちの主従関係3・浮舟の女房侍従の君のつぶやき

高貴な御方々に『おしどり夫婦』がどれくらいおられるのか私には見当もつきませんが、あの匂宮さまと中の君さまは互いに愛し愛され、まことに仲の良い御夫婦だとの評判でございます。もっとも、背の君の愛情が過剰すぎるからでしょうか、有り余るなさけ心を…

陽炎

地熱にじわじわ暖められた空気で孟宗竹が揺らめいて見える。ようやく立秋を越えたというのに、まだまだ夏真っ盛りの大暑のような厳しい暑さが続いていた。西に傾き始めた陽は熱く赤く焦れ、熱でよどんだ空気はピクリとも動かない。「暑い…」陽をまともに受け…

三途の守は見た

俺さまの名前は黄泉の国三途の守。先ほど特別貸切で、たった一名を渡し終えたばかりだ。その名は藤原道長。生前、最高権力者だった御仁らしいが、貸切になったのは、他の亡者たちが同船するのをメチャクチャ渋ったためだ。最高権力者だったとはいえ、船は別…

振り返れば奴がいる? その3 まじないの結末は…

月明かりに照らされながら、斉信が何かに耐えるようにじっと立ち尽くしている…そんなふうに行成には見えた。気付かれないように、かなり離れたところで見守っているのだが、心配で心配でたまらない。流言飛語やまじないなど信じるつもりも無いが、斉信は深刻…

振り返れば奴がいる? その2 心配のあまり斉信を尾行する行成

(しかし、聞いたその晩に実行するとは思いもしなかったぞ)今、行成は暗闇を歩く斉信のかなり後ろを歩いている。要するに、あとをつけているのだ。あのあと、行成は屋敷に戻るなり舎人(とねり)に言いつけて、斉信の屋敷を見張らせていた。亥の刻(午後十…

振り返れば奴がいる? その1 怪しげなまじないの噂を聞いた斉信

『…未来の夫が知りたいならば、夜中に麻(アサ)の実をまきながら廃寺の周囲を回ればよい。”私はアサの種をまいた、アサの種を私はまいた、私をもっとも愛する人は、私を追いかけてきて刈り取れ!”と叫び、おそるおそる背後を振り向くと、幻の夫が現われ、足…

源氏物語の女房たちの主従関係2・女三の宮女房小侍従の君のつぶやき

その昔ならば、常に格式高く上品に、そして重々しくふるまうのが高貴な女人の責務だと言われてまいりました。それなのに、私のお仕えするご主人さまときたら。あ、申し遅れました。私、女三の宮付きの女房で、小侍従と申します。宮さまの乳姉妹でございまし…

胃も痛くなる一条天皇のつぶやき

朕はここの所みぞおちがシクシク痛んでしかたない。でも誰にも言う事は出来ない。なぜなら、一言でもつぶやくと痛みの原因なる人物たちが必ず飛んでくるからだ。そう、「たち」というからには複数。しかも三人。その中にはわが母君もいらっしゃる。母君たち…

源氏物語の女房たちの主従関係1・末摘花女房侍従の君のつぶやき

■末摘花女房・侍従の君のつぶやき私、末摘花さまにお仕えしていた女房で、侍従と申します。お仕えしていた、と過去形になっているのは、姫さまの叔母さま一家が筑紫へ赴任する事になり、「お手当てとってもはずむから」とのお誘いをいただきまして。ええ、乳…

第三回直撃レポートin典薬寮

私の名前は藤原斉信。私は今、広大な大内裏の西側、典薬寮の門の前にいる。普段の私は、ここにそれほど用事はないのだが、さる高貴な血筋の御方からの命により、典薬頭にインタビューをしにきたのだ。さる高貴な血筋の御方からの拝命も、これで三回目。今回…

未来予想図 その2

「ごり押しにもほどってものがあるだろう」帰る道すがら、斉信は憮然とした面持ちでひとりごちた。『わしの病が回復するまでの間、息子の伊周に文書の内覧をお許しいただきたい。あれももう内大臣として一人前になったと思う。公卿への根回しはまだしておら…