鈴なり星

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源氏物語の女房たちの主従関係2・女三の宮女房小侍従の君のつぶやき

 


その昔ならば、常に格式高く上品に、そして重々しくふるまうのが高貴な女人の責務だと言われてまいりました。
それなのに、私のお仕えするご主人さまときたら。

あ、申し遅れました。私、女三の宮付きの女房で、小侍従と申します。
宮さまの乳姉妹でございまして、幼い時からずっとお仕えして参りました。
そんな主人へのグチをお聞かせして恐縮なのですが、ウチの宮さまのユルさといったら、身分は超一流でも性質は二流以下、よくもまあ、これほど幼稚なことよと周囲の女房がイライラするほどの感性のなさ。ご身分にふさわしい威厳のカケラも見えず、ただそこに大きな人形が座っているかのような…そんなのですから格下の柏木さまに押し切られてしまうのですわ!
柏木さまは、宮さまの背の君であられる源氏の大殿のスキをついて、宮を見せろ逢わせろの猛攻撃だったのです。
あの時、宮さまに身分に見合った威厳と気高さがあれば、柏木さまを劣情に駆り立てさせることもなく、ひれ伏させることができましたのに。

は?主人をつかまえてずいぶんひどい言いようだ、ですって?
まあ、心の底にくすぶる嫉妬の炎が言わせている、と思ってくださって結構ですわ。
高貴なお屋敷の姫君の寝所に忍び込むために、姫に仕える女房を手込めにして手懐ける。これは、忍び込むための手引きを必要とする殿方の常套手段です。私の母方の伯母が柏木さまの乳母だという縁もあって、柏木さまはこの私に狙いをつけられたのでしょうが、私としてはとても複雑な心境でした。
のびやかな若木のような闊達(かったつ)な風情。大臣家の頭領の君。
そんな魅力あふれる貴公子が、お目当ての姫に逢いたさのためだけとはいえ、この私を抱いて下さったのです。手引きを承知するまで何度も。そんな関係になって、女が恋心を抱かないはずありませんわ。

なのにうちのご主人さまときたら、どこまでもなよなよするだけ。我を忘れた柏木さまに、取り返しのつかない事態を引き起こさせた事はみなさまおわかりでしょう。
あんな、あんなノータリンで思慮のない白痴女のどこがいいのですか、柏木さま。それほどまでに身分万歳なあなたさまが恨めしゅうございます。

わたしなど、仮に情をかけていただいたとしても、せいぜい召人(めしうど)程度がオチ。夜更けの御帳台にお二人が籠られるすぐそばで、人が来ないか見張らされている私の気持にもなってくださいませ。この時ほど、ただ利用されるためだけに手込めにされた側近女房の悲哀をかみしめることはございません。女房というものは、人格が認められていないのも同然、石ころか木切れのような扱いで十分なのですね。

宮さまは、乳姉妹であるこの私が手引きしたなど気づくはずもなく、いまだに私に警戒心のひとつも起こさないような、そんなぼんやりしたお方。
あんな無防備な風情では、側近女房がどれだけ神経をすり減らして気を配っていても、今に、今にきっと恐ろしいことが起こりますよ。きっとね。