鈴なり星

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源氏物語の女房たちの主従関係1・末摘花女房侍従の君のつぶやき

 


■末摘花女房・侍従の君のつぶやき

私、末摘花さまにお仕えしていた女房で、侍従と申します。
お仕えしていた、と過去形になっているのは、姫さまの叔母さま一家が筑紫へ赴任する事になり、「お手当てとってもはずむから」とのお誘いをいただきまして。


ええ、乳姉妹の縁からずうっと姫さまにお仕えしていくつもりでしたが、このお屋敷はみなさまもご存知のとおり、暖を取るため簀子(すのこ)の板をはずして燃料にしたり、牛飼い童も野原と間違えて放牧するような荒れ屋敷。まともなお手当てが出るはずもなく、この私も某斎院とかけもちで働いていたのですが、その斎院さまも先日お亡くなりになって、とうとう末摘花の姫さまの所だけでは収入のめどが立たなくなってしまったのです。
乳姉妹の縁が絶える事はありませんが、私は若く美しく、まだまだ好条件の勤め口を見つけられる立場なのです。
姫さまには申しわけないと心底お詫びしたい気持でいっぱいなのですが、あのお屋敷にしがみついているスジだらけの老い女房たちと共に年齢を重ねてゆくのだけはごめんこうむります。
女房つとめなんて暮し向きを保障されてナンボ。斎院さまのもとに出入りしていた頃は、そこそこ華やかで楽しい思いもしましたが、お亡くなりになられた今、もうお仕えする理由もなくなってしまいました。


え?そのまま次の斎院にお仕えしないのかですって?
私たちは個人契約でして、お仕えする主人が亡くなってしまわれると、みなさん別の働き口を探して散り散りになってお別れなんですよ。そこの「お屋敷」にお仕えしているわけではなく、そこのご家族のお一人が、私たち女房の主人なわけですから。お仕えしていた主人筋の方がお亡くなりになったからといって、家族の他の誰かに鞍替えするというわけにはなかなかね。ご家族それぞれに付いている女房たちと面識はほとんどありませんし、空きがあるとは限りませんから。


さて、もうそろそろ姫さまにお別れのご挨拶に参上せねばなりません。
筑紫は田舎ですが、姫さまにお仕えするよりは、ずっと楽なお勤めができるでしょう。青スジ立てて、食べ物や燃料の心配をするみじめな自分とはもうおさらば。そんなのは、よりよい勤め口も見つけられず、あの物の怪屋敷で埋もれてゆくしかない老い女房たちが心配していればよいこと。


は?良心の呵責?末摘花の姫さまを見捨てるのかですって?
ぶっちゃけた話、沈みかけた船と共倒れになるつもりはありませんのよ。軽薄だと言われようと、羽振りのよいお屋敷に移って多少のぜいたくも恋愛の駆け引きも味わいたい。そう、私は姫さまの人生背負い込むつもりはありませんの。お許しあそばせ。