鈴なり星

平安古典文学の現代語訳&枕草子二次創作小説のサイト

古今著聞集

古今著聞集・興言利口14 565~571段

565段 橘蔵人大夫有季入道の青侍、不運の事 蔵人大夫の橘有季という入道のところに年配の青侍がいた。何事もツイてない、気の毒な人生を過ごしてきた彼だった。ある飢饉の年、彼は3日間食べ物にありつけず、それこそ命も危ないという時、主人の大夫が所有す…

古今著聞集・興言利口13 559~564段

559段 孝道入道が隣家の僧越前房を批判した事 孝道入道が仁和寺の自分の僧房で知人と双六を打っていると、隣の部屋の越前房という僧がやって来て見物し、いちいち口をはさんで邪魔をする。入道は腹の中で憎たらしく思いながらも我慢して双六を続けていた。そ…

古今著聞集・興言利口12 555~558段

555段 能筆で知られたぐうたら智了房の事 少し前の話。『無沙汰の智了房』という者がいた。無沙汰とは怠け者の意味で、つまりこの智了房はぐうたらで、約束を守らないことが度々あったのだった。だがこの智了房はたいへん字が上手く、よく書写を頼まれていた…

古今著聞集・飲食3 622~625段

622段 奈良法師の句に連歌した式部大輔敦光の事 式部大輔・藤原敦光のところに、奈良から僧が、飛鳥味噌(あすかみそ)なる食べ物をたずさえてやって来た。この飛鳥味噌、南都の僧が法論(仏教義の討論)を行う際、眠気防止に食した味噌で、焼き味噌に麻の実…

古今著聞集・変化5 606~611段

606段 大納言泰通の夢枕に老狐が立った事 大納言泰通卿の邸宅は、父親の侍従大納言成通卿から譲られた古い屋敷である。屋敷の広い庭にはたくさんの狐が棲みついていたが、特に困った悪さをするでもなかったので、そのまま放置していた。ところが年月が経つに…

古今著聞集・変化4 602~605段

602段 若狭前司庄田頼度、八条院の変化を捕らえる事 後鳥羽院の御世、八条殿に障子内親王がお渡りになられることになったのだが、そこには夜な夜な化け物が出現するという噂があった。困った帝は、前若狭守の庄田頼度という者を召し、「内親王が怯えておられ…

古今著聞集・興言利口11 551~554段

551段 美貌の尼に仕え雌伏三年、思いを遂げた僧の事 少し前の話だが、あるところに純潔を慎ましく守り続け、一度も男と交わったことのない清らかな尼さんがいた。女盛りで顔立ちは美しく、立ち居振る舞いも好ましく、暮らしむきもまずまずのこの尼さんに、と…

古今著聞集・興言利口10 547~550段

547段 蔵人某の珍妙な喪服の事 ある若い蔵人が妻のことで困っていた。妻はとても嫉妬深く、男もほとほと愛想が尽きるほどで、毎日喧嘩が絶えなかった。男はいつもいつも「もう嫌だ、今日こそ別れたい、今日こそ」と思い続けていた。前世からのなにがしかの縁…

古今著聞集・魚虫禽獣1 672~679段

672段 禽獣魚虫、皆思ふ有るに似たる事 空飛ぶ鳥、地を歩くけものや虫けら、水泳ぐ魚の数は途方もない。人と話すことはできないが、その一つ一つには心があり、それぞれが皆思いを持っているように見える。 673段 右近少将広継、大宰府にて龍馬を得た事 奈良…

古今著聞集・宿執4 497~500段

497段 わずか七つにして芸道に執心する子の事 法深房藤原孝時は20歳の頃より熊野詣を始めた。「私の芸が父に及ばないのでしたら、今すぐこの命を取り上げて下さってかまいません」参詣のたびにそう祈り続けた甲斐があってか、その後彼は琵琶楽の第一人者にな…

古今著聞集・宿執2 486~492段

486段 楽人時資、院の勅に反し、寵童に奥義を授けぬ事 白河院が御在位だった頃の話である。ある時時資(ときすけ)という楽人が帝に召され、当時帝のご寵愛だった二郎丸という名の稚児に、貴徳と納蘇利の楽の秘儀を授けよという勅定がおりた。が、時資は固辞…

古今著聞集・宿執3 493~496段

493段 重病をおして神楽行事を行った人の事 故高倉院の笛の師匠だった藤大納言実国は、寿永元年(1182年)頃病気で寝込んでいたのだが、闘病中にも関わらず、豊楽院清暑堂の御神楽の本拍子役に選ばれた。清暑堂での神楽は大変重要な行事なので、実国は息子二…

古今著聞集・変化3 598~601段

598段 二条院の御時、南殿に変化の出る事 二条院が御在位だった頃の出来事。ある年の新嘗祭、五節の舞が行われた卯日の深夜、南殿(紫宸殿)の東北の片隅を、主殿司が歩いていたところ、背後から誰かに頸(くび)の辺りを押される気配を感じた途端、主殿司は…

古今著聞集・興言利口9 543~546段

543段 聖覚法師の力者法師が築地修理の工人をののしる事 持明院の棗堂(なつめどう)の前を聖覚法印が通った時の話。堂の築地を工人たちが修理しながら世間話をしていたのだが、聖覚法印の説法の雑談をした時、たまたま法印ご本人が輿(こし)にゆられて通り…

古今著聞集・興言利口8 540~542段

540段 七条院の女房権大夫、孝道と歌の贈答をする事 高倉院妃だった七条院に仕えた女房・権大夫の話。彼女は歌人建礼門院右京大夫の姪にあたり、その歌才を受け継いだ宮廷女流歌人・七条権大夫として評判だった。『秋きぬと松吹く風もしらせけりかならず荻の…

古今著聞集・興言利口7 537~539段

537段 下野種武、大仮名にて散状を書く事 後鳥羽院の治世の頃、某所で行われた競馬(くらべうま)で、下野種武という随身が敗者になった。勝負事の敗者は負けわざを披露するのがルール。とはいえ、一介の随身で豪華な宴会などができるはずもないので、せいぜ…

古今著聞集・興言利口6 530~536段

530段 下野武景、別名「善知識の府生」の事 後鳥羽帝の御時のこと。右少将藤原親平の息子性親が気性の荒い馬を持っていた。葦毛のたいそう癇の強い馬で、フェラーリのエンブレムくらい跳ね上がるクセがある。これに耐えて乗りこなせる者などめったにいないと…

古今著聞集・興言利口5 526~529段

526段 下野武守、息女を秦頼武に嫁がせる事 後白河院の随身の秦雷文の息子・頼武が嫁を迎えた。相手は近衛殿随身下野武守の息女である。婚礼当日、父親の武守は娘を相手方に嫁がせるのに何と徒歩で行かせた。娘にとっては人生のハレの日、車かせめて馬に乗せ…

古今著聞集・興言利口4 521~525段

521段 粟田口大納言忠良、近衛基通公と歌を贈答する事 粟田口忠良卿は、権大納言時代も含めて長いキャリアを持つ大納言だが、政治活動より歌人生活が大事だったのか、朝廷に出仕するのを怠ってばかりだった。あまりの怠慢に、世間では、「ろくにお勤めしてま…

古今著聞集・飲食2 616~621段

616段 道命阿闍梨がそまむぎの歌を詠む事 大納言道綱の子・道命阿闍梨が巡礼修行の旅をしていて、あるとき、都では口にしたことのない、木こりや炭焼き人が食するような食べ物を供されたことがあった。道命阿闍梨は食事を用意した杣人(そまびと)に、「これ…

古今著聞集・飲食1 612~615段

612段 食は人の本にして酒は三友の一なる事 食べることは人間生活の基本である。治政の中でも「食える」保障は、国家の安定にもっとも重要な事柄だ。そして「食」の中でもとりわけ酒造りの起源は古く、スサノオノミコトの時代から始まったと伝えられる。まこ…

古今著聞集・変化2 593~597段

593段 承平元年6月、弘徽殿の東欄に変化の事 承平元年(931)6月28日午後2時頃、衣冠束帯姿の鬼が弘徽殿の東の欄干のほとりに現れ、消えていった。身の丈3mもあるかと思われるほどの大鬼が、白昼堂々と後宮の中心部に現れるなど、現実のこととも思えない。…

古今著聞集・変化1 588~592段

588段 人をたぶらかす変化(へんげ)にだまされない事 変化(へんげ)や妖かしのモノたちは、際限なくその姿を変え、見る者の心を惑わす。従って、如何に摩訶不思議を見せつけられようとも、決して信じてはいけないのだ。 589段 仁和3年8月東松原に変化が出…

古今著聞集・恠異(怪異)2 583~587段

583段 後朱雀院、清涼殿の屏風の上に怪人を見る事 後朱雀天皇が崩御される前年のこと。除目(じもく)の最中、清涼殿第五の間の奥にある四季屏風の上に、赤い組み紐を首にかけた巨人が現れた。誰かに見られているような気配を感じられた天皇の背筋は凍りつき…

古今著聞集・恠異(怪異)1 579~582段

579段 怪異の畏れ慎むべき事 怪異に出会えば物忌みをして誰しも身を慎まねばならない。しかし白居易が『凶宅の詩』で、「凶なるものは場所がつくるものではない、人の惑う心がつくり上げるものなのだ」とうたっているように、そこに住んでる人に不幸が生じる…

古今著聞集・興言利口3 517~520段

517段 基房の春日詣に召され、褐衣で供奉した秦兼国の事 奈良は春日神社へ参詣する摂政松殿基房(藤原基房)が、後白河院から秦兼国という随身を借りたときの話。当時の兼国は警護の仕事を嫌っていて、この依頼を面倒くさいと思いつつ請け負った。やる気ナシ…

古今著聞集・興言利口2 513~516段

513段 何かと要領が良い下野武正の事 法性寺殿(藤原忠通)が大坂四天王寺に参詣したときのこと。お供の下野武正が、道中の山崎で落馬した。その時は特に何も言われなかったが、後日、同じ山崎をまた法性寺殿が通過したとき、今回もお供に加わっている武正が…

古今著聞集・興言利口1 507~512段

507段 興言利口は場を盛り上げ楽しませる事 場を盛り上げる即興の笑い話・洒落話、あるいは露骨に卑猥な下ネタ話などの紹介。 508段 競馬の敗者をおもしろく批評した大納言経信の事 関白忠実公の随身・下野敦末が競馬(くらべうま)を務めることになったが、…

古今著聞集・宿執1 480~485段

480段 宿執は天性の染着する所なる事 前世からの因果とは生まれつきのもので、本人の努力で出来上がったものではない。学問武芸以下、一個人の才能・人柄・容姿は、それらを前世から受け継いできたのだ。死に直面しようが、それらの因縁から逃れることは難し…

古今著聞集・偸盗5 442~446段

442段 鞍馬の参拝者が追いはぎに遭う事 参詣者A「鞍馬街道の市原野に夕方追いはぎが出たらしい」参詣者B「あそこは良い休憩場所なんだけどね、両脇の山に隠れている山賊から丸見えなんだよ」参詣者A「参拝者の身ぐるみ剥いだ上に斬るなんて、盗人どもめ、地…