鈴なり星

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古今著聞集・偸盗5 442~446段

 

 

442段 鞍馬の参拝者が追いはぎに遭う事

参詣者A
「鞍馬街道の市原野に夕方追いはぎが出たらしい」
参詣者B
「あそこは良い休憩場所なんだけどね、両脇の山に隠れている山賊から丸見えなんだよ」
参詣者A
「参拝者の身ぐるみ剥いだ上に斬るなんて、盗人どもめ、地獄に堕ちたらいいのさ」
慶算法師
「夕暮れに市原野にて負ふきずはくらまぎれとやいふべかるらん
(暗闇に紛れて負う太刀キズは鞍馬斬れ。
 なんちゃって)」
参詣者A
「馬鹿にしようと聞いてたのに」
参詣者B
「意外に面白くて驚いたわ」


443段 盗人に櫛箱を盗まれ、童が歌を詠む事

澄恵という僧都が子供だったころの話。
世話役の僧が澄恵の頭を剃ろうとして整髪道具一式の入った櫛箱(くしばこ)を探したが、一向に見つからないことがあった。盗人が盗って行ったからなのだが、この澄恵、幼いのになかなかの歌を詠んだ。

白波の立ちくるままに玉くしげふたみの浦の見えずなりぬる
(白波が立ってきたら二見の浦は見えなくなるけど、盗人がやって来たらくし箱が見えなくなるんだね)

・白波=盗賊の隠語になってるそうです


444段 澄恵僧都が蕎麦泥棒の歌を詠む事

この澄恵僧都の宿坊の隣家が、畑に蕎麦を植えていたのだが、ある夜盗人が忍び込み、蕎麦をごっそり抜いていった。
その話を聞いた澄恵僧都はこんな歌を詠んだ。

ぬす人は長袴をやきたるらんそばを取りてぞ走りさりぬる
(蕎麦ドロボウが(長袴の)そばを取って一目散)

・長袴の両腰に開いているスリットを「そば」と言っていたそうです


445段 山守縁浄法師、わらび泥棒の歌を詠む事

花山院家の山荘・粟田口殿の敷地内に自生している山蕨(やまわらび)の若い芽(若芽をカギワラビという)があまりにも頻繁に盗られるので、山守縁浄法師がこんな歌を詠んだ。

山守のひましなければかぎわらびぬす人にこそ今はまかすれ
(盗られないよう気をつけているのにどんどん盗られてしまう。こうなったらカギワラビのかぎ(=鍵)を盗人本人に任すしかないよなあ)


446段 恵心僧都の妹尼の所に入った泥棒が改心する事

恵心僧都(横川僧都。源信ともいう)の妹・安養尼のところに強盗が忍び込み、めぼしいものをごっそり盗んで家を出た。そのとき、紙の中にワラを詰めた布団をかぶっていた安養尼に、その妹の小尼公が、
「盗人が落としていきましたよ。せめてこれだけでも着てくださいな」
と言って小袖を渡した。小尼公がからっぽの家の中で見つけた残り物だった。ところが安養尼は、
「盗人は、一度盗った物は全て我が物と思っているでしょう。この小袖だってそうですよ。ですから、盗人の了解を得ずに着てよいものかどうか…そうだわ、盗人はまだ遠くに行っていないでしょうから、何とか追いついて渡してあげなさい」
と言う。小尼公は小袖をつかんで表へ出た。盗人たちが見えたので、
「もしもし、これを落としてますよ」
と恐る恐る呼びかけた。盗人たちは立ち止まった。
「確かに渡しましたよ。では」
小尼公は盗人に小袖を手渡した。
盗人たちは小袖を手にしたまま固まってしまったのだが、
「こんな心根(こころね)の人たちから物は盗れないよなあ」
と改心し、盗んだ物を全部尼君たちのもとに返したという。