鈴なり星

平安古典文学の現代語訳&枕草子二次創作小説のサイト

2023-01-28から1日間の記事一覧

狭衣物語8・狭衣と飛鳥井姫君との出逢い

狭衣の中将は、源氏の宮に恋心を打ち明けて以来、心晴れることもなく、忍び歩きでもすれば立ち直ることもあろうかと、いろいろ気をまぎらわせようとしてはみるものの、やはりあの、源氏の宮の手をとらえた感触が忘れられそうにない。 ある日、宮中へ出仕した…

狭衣物語7・父の説教

狭衣の中将は、源氏の宮に今まで抑えていた想いを告げてから、前よりいっそう恋慕に耐え難くなり、うつうつとした日を過ごすようになった。自分を受け入れてはくれなかった源氏の宮の事を考えると、もうこれ以上生きていけそうにない、そんなふうにただぼん…

古今著聞集・偸盗3 437~440段

437段 所衆行実のからめ取りたる盗人、北陣にて詠歌の事 承久年間のある年、某お屋敷に忍び込んだ盗人を内裏に追い込んで捕らえたことがあった。蔵人所の下級武士の行実という者が記録所付近で取り押さえた。行実はその盗人に水干用の袴と紅の衣を着せ、略奪…

古今著聞集・偸盗2 433~436段

433段 検非違使別家の女房強盗の事露顕して禁獄の事 大納言隆房卿が検非違使別当だった頃の話。ある時、白川あたりの某屋敷に強盗が入った。そのお屋敷にずいぶん気性のしっかりした家来がおり、勇敢に強盗一味と戦っていたが、強盗の群れの中にうっかりまぎ…

古今著聞集・偸盗1 427~432段

427段 盗賊は刑獄の法たる事 盗みをする者は法律に基づいて厳しく罰せねばならない。次から次へと罪を重ね、他者の金品を求めて闇を徘徊するような輩は、どこに居ようとも決して放置してはならない。・「盗」はスリ的な行為、「賊」は人の命を奪うような深刻…

小夜衣8・最高セレブな姫君との縁談を持ち込まれて

さて、この山里の姫君の現在の保護者にあたる尼君の素性を説明しておかねばなりません。この尼君は、先々代の三条帝の御治世に中将命婦と呼ばれていた人で、容貌も才能もたしなみも際立って優れていた女房だったため、当時は数多(あまた)の公達の恋心をと…

小夜衣7・東雲の宮(兵部卿宮)、本願叶った三日夜通い

嵯峨野からの帰り道、兵部卿宮の頭の中といえば先ほどまで抱き寄せていた山里の姫君のことばかり。(五月雨にうつむいた真っ赤な撫子が、雨上がりの夕映えにきらきら輝いているようなみずみずしい姫君の姿…ああ、もっともっと見ていたかったな。今宵一夜逢え…

古今著聞集・画図5 403~406段

403段 天福元年後堀河院らにより開催された貝合わせの事 天福元年、退位して間もない後堀川院とその中宮だった藻璧門院が、内大臣西園寺実公の豪邸・常盤井殿にて絵を賭け物にした貝合わせを開催した。貝も素晴らしかったに違いないが、注目したいのは、賭け…

古今著聞集・画図4 399~402段

399段 伊予入道、幼少時不動明王の落書きをする事 伊予入道・藤原隆親は幼少の頃より絵が上手だった。彼の父親は、我が子の絵の才能をなぜか気に入らなかった。この父親は藤原隆能という著名な絵師で、現在徳川美術館や五島美術館に収められている国宝『源氏…

古今著聞集・画図3 394~398段

394段 琵琶玄象の撥面の絵の事 名器『玄象』の撥面の絵柄は早くから消えていたのでその絵柄を知る人はいない。騎馬で打毬をしつつ舞う姿が描かれていたとの説がある。名器『良道』の撥面はこの絵柄を模して描かれたと聞く。しかし現在の良道の撥面はそのよう…

狭衣物語6・狭衣、源氏の宮へ恋心を打ち明ける

やがて季節は変わり、暑い暑い夏がやってきた。水を恋い慕う水恋鳥のごとく、源氏の宮に焦がれる狭衣の恋心は募ってゆく。することもない夏の昼、狭衣は源氏の宮が住む対の屋に渡った。源氏の宮は白く涼しげな紗を着て、何か赤いお文を見ていたらしく、横を…

狭衣物語5・天に愛でられし狭衣を心配する人々

「宮中でなにかあったのか。騒がしいようだが」と堀川大殿が女房らに尋ねる。屋敷の蔵人の詰所に問い合わせると、家司が、「内裏でしかじかの事件がございましたようです。したがって狭衣様は帰邸が遅くなるかもしれません」と奏上した。大殿は、「なんたる…

狭衣物語4・雨夜の宴、天使降臨を誘う狭衣の笛の音

中宮方は、特に昔のような端午(たんご)の節会などは行われない夜で退屈だった。空模様も雨が降りそうな気配である。つれづれの慰めに、東宮と共に今上の御前に参り御物語などを始める。御前には、太政大臣の息子権中納言・左兵衛督・宰相中将などの若上達…

古今著聞集・画図2 389~393段

389段 絵の大上手常則と小上手公望の事 小野宮大臣・藤原実頼が自邸の衝立障子に松景色を描かせようと飛鳥部常則に依頼したが、あいにく不在だったため、巨勢公望を召し出して描かせた。後日、家に戻った常則に、公望の描いた衝立障子の松景色を見立てさせた…

古今著聞集・画図1 383~388段

383段 絵画は閑中の産物であるという事 とりどりの色で万物をあますところなく表す画図。対象となるものをつぶさに観察し、自分の色で表現する『絵』は、時間を費やす趣味としてまことにふさわしい。 384段 紫宸殿ならびに清涼殿の障子の由来の事 紫宸殿の障…

小夜衣6・兵部卿宮、ついに山里の姫君に会う

さて、宰相の君の首尾が気になる兵部卿宮は、自分もお見舞いに出向こうと、そぼ降る雨の中、嵯峨野へと出かけました。山里の家、すなわち雲林院の場所は今度はすぐに判ります。見覚えのある垣根には卯の花がまだ咲き残っていて、牛車を垣根のそばに停めると…

小夜衣5・押せ押せで説得にはげむ宰相の君と不安な尼君

さて、こんな風に、鄙びた山里に住む姫の手紙ただ一枚にやきもきしている兵部卿宮でしたが、先帝の御子という主流の皇族のお血筋ゆえ、ぜひ我が娘にお声をかけていただきたいと熱望する公卿たちが、宮付きの女房はおろか、父院にも根回しの嘆願をするありさ…

古今著聞集・好色4 331~332段

331段 後嵯峨天皇、某少将の妻を強引に召し上げる事(なよ竹あるいは鳴門中将物語) 後嵯峨天皇という御方は土御門天皇の第三皇子、諱名(いみな)は邦仁(くにひと)と申します。父帝(土御門天皇)は承久の乱のおり、御父後鳥羽上皇や御弟順徳天皇らが次々…

古今著聞集・好色3 326~330段

326段 大宮権亮、女房の局で直衣を前後ろに着た事 どの時代のなんという何という公達だったかは存じませんが、とある大宮権亮(おおみやごんのすけ)が、親王と一緒にお出かけした帰り(還御)の出来事です。大宮権亮というのは、皇太后職というお役所のナン…

雪だるま

「…予想はしていたが、無断欠勤だらけだねえ」出勤した殿上人のあまりの少なさに、斉信がぼやく。四日ほど前までの春のようなのどかな天気から一変、北西からの強い風が吹いてきて、湿気をたっぷり含んだ雪雲を山の彼方から連れてきた。なんともいえないほど…

小夜衣4・兵部卿宮、山里の姫の隠れ家を発見する

さて、ちょうどその頃、兵部卿宮は嵯峨野を訪ねていました。宮の御乳母で三位の君という女房がいて、夫の大弐(大宰府次官)と共に筑紫に下っていましたが、夫の急死の後、尼になって、ここ嵯峨野で勤行生活をしていました。その御乳母が三月頃からふとした…

小夜衣3・宰相の君、尼君の説得にかかる

兵部卿宮も、自邸で悶々とする毎日です。「こんなにときめく恋は初めてだ。一度身の上を聞いただけなのに、頭から姫の面影(見たことないけど)が離れない。ああ早くお逢いしたいものだ。じれったいことよ」と来る日も来る日も宰相の君を責めていますが、返…

古今著聞集・好色2 322~325段 

322段 後白河院において、小侍従が懺悔する事 ある日ののどかな昼下がり、後白河院の御所で、院が気の置けない人たち相手に、まったり雑談していました。「皆の者。忘れようにも忘れられない、そんな過去の思い出はないかな。ちょうど良い機会だ、懺悔の意味…

古今著聞集・好色1 315~321段

315段 イザナギ・イザナミ二人の神様の婚姻の事 イザナギという男神とイザナミという女神が、世界初の地・オノコロ島に降り立ち、夫婦となった経緯を申しましょう。まず女神の方が、「まあなんて良い男でしょう」と誘いかけましたところ、男神もそれに応えま…